淫らに躍る筆先 《 15

 見ないで、と言ったところでいままでの経験上、無駄だとわかっている。
 初めは冷たかった筆はしだいに肌の温度になじんでいった。しかし龍生は筆先にまた水を滴らせる。龍生はパレットに絵筆をいったんあずけ、すぐにまた和葉の肌へ戻した。

「ふっ……!」

 ひややかな筆先が乳房の下のほうを撫でる。輪郭をたどるようにゆっくりと這う筆先はそこに命があるかのように生き生きと動いている。そう錯覚してしまうのは、きっと龍生の筆遣いが巧みだから。
 筆の先がふくらみの稜線をのぼり始めた。薄桃色の部分へと忍び寄る。胸の中心に触れられるのを期待してか、自然と息遣いが荒くなる。

(……じれったい)

 白い筆先はなかなか欲しいところへやってこない。薄桃色と肌色の際に触れてはまた遠のく。それを繰り返している。

「……胸を揺らして、誘ってる?」
「えっ!?」

 指摘されるまで気がつかなかった。確かに、体が揺れてしまっていた。和葉はピタリと動きを止める。

「ち、ちが――」

 ――いや、なにが違うというのだろう。ふくらみの尖っている部分を筆でなぶって欲しいと切望しているではないか。

「……その……違わない、です」

 すると龍生はほがらかに笑った。

「正直だね」

 パレットの水に筆先を浸し、和葉の胸の前へと持ってくる。

「んぁっ……」

 ようやく欲しいところに筆が触れた。絵筆の先は和葉の乳輪をかたどるようにぐるぐると円を描く。筆で描かれた水の軌跡はすぐにすうっと溶けて肌になじんでいく。

「は……ん、んん……っ」

 色を塗り込めるように、幾度となく筆で乳輪をたどられた。筆は水を重ね、和葉の薄桃色を濃いものにする。筆に触れられていない尖端がたまらずひとりでに起き上がる。

「和葉ちゃんの乳首……可愛らしく尖ってる」
「ふ、うぅっ」

 胸の先がそんなふうになっているのはわかっていた。それでも、指摘されるとよけいに恥ずかしい。和葉はピクン、ピクンと肩を揺らして唇を噛みしめる。

「笑ってる顔も好きだけど、そうして恥ずかしそうにしてる和葉ちゃんもすごくいい」

 龍生は口の端を上げて手首をひねる。

「だからつい、いじめたくなる」
「ぁあっ、あ……!」

 筆先がツン、ツンッと薄桃色の棘をいたずらにつついた。押してはすぐに離れ、和葉にもどかしさを募らせる。

「や、あぁっ……! もっと、ちゃんと……ッ」
「……ちゃんと?」

 楽しげにほほえんだまま龍生は平べったい毛先で乳輪の際をこすり立てる。和葉は「ひぁぁっ」と高い声を上げて右へ左へと胸を揺らす。

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