秘されし、その甘やかな救済 《 第二章 05


「きみは……そうだな、バスローブに着替えるといい。あちらの部屋を使ってくれ。俺はそのあいだに浴室へ入っておく」
「はい」

 マティアスが指し示した続き間の扉を開けると、そこは衣装部屋だった。バスローブも置いてある。ラティーシャは手早く着替えを済ませた。
 すでに彼がいる浴室に足を踏み入れる。中は蒸し暑かった。緊張もあいまってすぐに汗ばむ。
 浴室の椅子に腰掛けていたマティアスはラティーシャを見るなり固まった。バスローブ姿のラティーシャを凝視している。

「……へ、へんでしょうか」

 バスローブの着方がいまいちわからなかった。くわえてこれは男性物で、体に対してかなり大きい。腰紐をしっかりと締めたので上半身はきつく襟を合わせることができたが、裾のほうはどこか心許ない。

「い、いや……へんでは、ない。ただ――」

 マティアスはしどろもどろしている。
 きつく締め付けられ、そして汗を吸ったバスローブは乳頭が透けて薄桃色が露呈してしまうということにラティーシャは気がついていない。
 マティアスはちらりちらりと忙しなく彼女の胸もとを見てはうろたえ、視線をさまよわせた。

「……なんでもない。始めてくれ」

 ラティーシャはごくっと喉を鳴らしてマティアスに近づく。

(公爵さまを洗えばいいのよね……?)

 湯浴みの手伝いをするのは初めてなので要領を得ないが、手順は自分が湯浴みするときと同じだと思われる。

(ううん……彼は貴族だもの。なにか特別な手順があるかもしれない)

 ラティーシャはそう思い至ってマティアスに尋ねる。

「洗い方をご教示いただけますか?」

 するとマティアスは目を丸くした。先ほどから彼はなにやら驚いてばかりだ。

(驚かせるようなことをしているの? 私……)

 ラティーシャの翡翠色の瞳が戸惑いをあらわに揺らめく。

「あー……ええと」

 マティアスは右手を上げて耳のあたりをカリカリとかいた。ラティーシャはそれをただ見つめていたが、ハタと気がつく。

(公爵さま、裸だわ……!)

 いまさらだ。いまさらながらそのことを意識してしまったのは、彼はその面《おもて》だけでなく体までも美しかったからだ。顔の造作にしてもそうだが、体もまた均整がとれていて、胸板は厚く筋肉質だ。
 ラティーシャはマティアスに魅入ってしまう。

「……では、ここを……こすってくれないか」

 彼が指さした箇所に視線を移す。ラティーシャは絶句した。

「……!?」

 そこはふだんは秘められていて、決して目にすることのないところ。

「いや、すまない……。じつに恥ずかしい。きみを見ているだけでここがこんなふうになってしまうなんて。我ながらあきれる……」

 マティアスが恥ずかしそうに目を伏せる。
 張り詰めた陰茎はラティーシャの目には異様に映った。そこだけが突出しているのに、その硬直が彼の一部なのだとはにわかに信じがたい。

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