淫魔に憑かれた女

富永 梓弓(とみなが あずさ)は弓状に身体を反らせて下から突き上げてくる衝動に耐えた。達しそうになるこの瞬間、梓弓はいつも幻覚を見る。決まって同じ女が見える。自分と良く似た髪の長い女。今日は、たわわな乳房を自ら揺らしている。

「あああ、あ……イクぅぅーー……ッ!」

しかしその幻覚は梓弓が絶頂すると見えなくなる。梓弓は肩で息をしながらグタリと男の胸に倒れ込んだ。放たれた淫液が満ちて行く感覚は堪らない。それがたとえ誰のものであっても。

長い黒髪は男の身体から はみ出してシーツの上にも掛かっていた。梓弓はそのままの状態で下敷きにしている男に話し掛けた。

「瀧川先生……今日も素敵だったわ」

「……そう? それじゃあ納期をもう少し遅らせてもらえるかな」

「ふふ、ご冗談を。もう出来上がっているのでしょう?ところで先生ーー……」

突然、官能小説家の担当編集者らしく仕事の話を始めた梓弓に、瀧川は やれやれ、というような表情を浮かべて彼女の身体を撫でた。

「ん……先生、私は真面目にお話してるのに」

「君がいつまでも僕のを収めてるからいけないんだよ。それに、イッたばかりの梓弓の身体は いつも以上に柔らかいから、つい触りたくなる」

身の内で果て、大人しくなっていた瀧川の一物が再び隆起し始める。

「あ、あ……ダメです、先生……っんふぅ」

梓弓は瀧川の胸に手を付いて身を起こした。すると彼は梓弓の豊満な双乳を両手で掴んで強引に上方へ引っ張り、ピンと尖った鮮やかな蕾を舌で舐め上げた。

「はぁ、あ……んん、んっ」

達したばかりの身体はどこもかしこも過敏で、乳頭を突つく瀧川の舌先は梓弓の媚蜜を更に溢れさせ、膣肉は時おり空気を含んだようにグチュ、と水音を立たせた。

「ああっ、んく……先生、もっと、もっと突いてぇ……っ」

「なんだ、やっぱりさっきのじゃ物足りなかったんだ?いいよ、もっと奥まで挿れてあげる」

瀧川は急に起き上がった。梓弓はよろけて仰向けに倒れる。間髪入れずに瀧川は梓弓の両脚を肩に担いで雄棒を深く突き刺した。

「んんんっ、あ……いい、いい……っ、あ、あんっ、もっとぉ……!」

梓弓の乳房はベッドの軋みに連動して上下に揺れていた。瀧川はその揺れを抑えるように膨らみを掴む。二十五歳の彼女の肌は年齢よりも格段に艶やかで滑らかだ。

「っふ、ふぁ、んん……っ、せんせ、もっと……乳首、摘まんでぇ」

「そんなに言うなら自分で摘まんだら」

「あ、ふ……先生の、いじわる……っん、ん」

梓弓は自ら乳首を指で摘まんで強く こねた。すると瀧川は梓弓の上半身を抱き上げて再び膨らみの先端を食んだ。

「んんんっ、ああ……っん、ふぅ……!」

乳頭は指も一緒くたに彼の唾液で しとどに濡れている。歯を突き立てられても痛みなど感じず、再度あの幻覚が見え始めて梓弓は絶頂が近いことを予期した。

「それじゃあ……私はこれで失礼します、瀧川先生」

「うん。あ……これ、忘れ物」

長い髪をきちんと結い上げ、淡いピンク色のスーツを身に付けた梓弓は瀧川に手渡された指輪を左手の薬指に嵌めた。これは目の前にいる着物の男との繋がりを示すものでは無い。

「そこまで送って行くよ」

瀧川は薄く微笑んだまま たもとに片手を入れた。梓弓が担当する小説家で、普段から着物を着ているのはこの男だけだ。

「いいえ、結構です。さあ、執筆に励んで下さい」

「はいはい」

梓弓は服を身に付けると態度が冷ややかになる。これが彼女の本質なのか、それとも裸の時が本来の姿なのかは彼女自身にも分からない。

***

瀧川の家を後にして文芸社に帰って来た梓弓は早速 預かった原稿を処理していた。こういうものは一気に片付けてしまわなくては気が済まない。
今日は残業をしてはいけない日。同僚たちは皆、「お先に」と言ってオフィスを出て行く。
管理職の面々だけがフロアに残る。そう、これからが愉しいひとときの始まり。

「梓弓、もういいよ」

いつもの一声で梓弓はパソコンに向かい合うのを止めて、声がしたほうを振り向く。今日も室長を始めとして部長、課長がデスクに残っていた。

梓弓は「はい」と返事をして立ち上がり、スーツのジャケットに手を掛けブラウスのボタンを外し、黒いレースがあしらってある下着を両手で捲り上げた。

躍り出た乳房は三人の男の視線に晒される。それだけで梓弓は身の内を熱くした。

「もうこんなにココが勃ってるじゃないか。いけない子だ」

一番初めに触れて来るのは室長。こんな時まで役職順だ。室長は梓弓の尖り切った乳頭を二つ同時に指で摘まんだ。

「ああ……ん、んん」

後ろに回り込んだ部長が梓弓のスーツとブラウスを完全に脱がせている。梓弓は抵抗することなくされるがまま、上半身は捲り上げたブラジャーだけになった。

「下も脱がせるんだ」

室長が指示して、部長は「はい」と返事をしてスカートのファスナーを下ろす。課長はいつも傍観者。自分のデスクに座ったまま梓弓を熱心に眺めている。

「下着は脱がせて、ストッキングはもう一度履かせろ」

床にはスカートだけがストンと落ちた。部長は言われた通りに行動する。下着は膝下で丸まったままストッキングだけを履かされる。

「こんな薄い繊維じゃお前のいやらしい雫を受け切れないな」

ベージュのストッキングの上から割れ目を さすられる。室長の指は秘裂を緩やかに何度も往復し、染み出した愛液を女陰全体に広げた。

「お前は乳房を揉んでいろ」

室長が言って、部長はまた返事をして梓弓の背後から腕を回して膨らみを鷲掴んだ。

「あんっ、う……っあ」

ストッキングの上から陰唇を辿る指がもどかしい。部長の指も、上司に言われるまでは決して頂きには触れないから、ますます焦れったくて梓弓は身をよじった。

「触れて欲しいのか?言ってみろ、どこをどうして貰いたい」

「乳首……っん、それから……ま●こも、早く……っぁ、お願い、します……っふ」

「相変わらず恥じらいの無い女だ」

室長は梓弓の身体を部長ごと椅子に座らせ、片脚を机に上げさせた。室長自身は別の椅子に腰掛け、いやらしい笑みを浮かべてビリビリとストッキングを破いて行く。

「よくもこんなに溢れさせたものだ。淫乱な女め」

「アアッ、あ……んふ、うっ」

人差し指を蜜口からねじ込まれ、梓弓は片手で机の端を掴んで悶えた。部長の膝上は温かく、彼の硬い一物が先ほどから誇張している。

「そろそろ乳首もいいですか、室長」

部長は静かに口を開き、上司の顔色を伺う。

「ああ、摘まんでやれ」

室長は見上げもせずに言い捨て、更に奥へと指を突っ込んだ。

「ああっ、あ……ひぁ、ぁッ」

机に頬杖をついて脚を組み、室長は片手で梓弓の蜜壺を弄っていた。部長は手のひらで乳房を強く揉み込みながら頂を指で摘まんで捻っている。
二人のリズムは対照的で、下半身は緩慢に、上半身はとても激しくなぶられている。一見して穏やかに見える部長の方が、いつも愛撫は強引だった。

「あ、あ……室長、もっと……もっと、奥まで」

「そう ねだるな。俺はお前が焦れったく悶える顔に そそられるんだ」

「んっ、んふ……っあ……そこ……もっと、突いて下さい……っぁ、あ!」

ツン、ツンと親指で割れ目の中の突起を突かれる。無骨な指は少し触れるだけでも大きな刺激になっていて、グイと力強く押されようものなら途端に陰部がビクビクと脈打った。

「もうイッたのか。もっと我慢しろといつも言ってるだろう」

「我慢なんて、出来ません……あ、あ……んっ、もっと……太いのを、下さい……っふぅ」

「やれやれ」

さも仕方無いと言うような素振りで室長は下半身を露出させて行く。雄々しい肉竿は高々とそそり立っている。梓弓はそれを一刻も早く身の内に収めたくて、

「早く、下さい……貴方の、硬くて太いペニスを」

自身で陰核を弄りながら待ち焦がれる。すると室長はわざとらしい溜息をついて梓弓の身体を抱き起こし後ろ向きにして、今度は正面に部長が見える格好になった。

「君は口の中に挿れるといい。この女はどの口も塞がれるのが好みだからな」

梓弓が跪くと、部長もスーツのズボンを脱いで陰茎を露わにした。梓弓がそれを咥え込むのとほぼ同時に、下半身の淫唇へも別の肉竿が挿し込まれ二つの穴が塞がる。

「っふ、ん……んっ、ん!」

律動は容赦無くすぐに激しくなる。陰核は後ろから捻られ、乳房は前から持ち上げるように揉まれ、口に含んだ硬い雄棒が喉の奥まで届いて息苦しい。
ガタ、と物音がして、梓弓は音がした方に視線だけを送った。課長がズボンを脱いで自慰をしているのが目に入り、それがまた情欲を掻き立てる。

「梓弓、もっと腰を振れ。動きが鈍いぞ」

室長は馬に鞭を打つようにパンパンッと素早く尻を叩き、梓弓の腰を掴んで最奥を何度も穿った。

「んんんっ、く……っ!」

肉棒でいっぱいなっている口は言葉を発することが出来ない。梓弓は呻き声を上げながら抽送に合わせて腰を振った。前後運動が激しくなったからか、口に含んでいた方のペニスが鼓動して淫液を放出したのが分かった。
梓弓がそれをゴクリ呑み込むと、

「出すぞ、中に……俺の子種を植え付けてやる」

子種があっても、卵が無い。そんな反論をしたところで何が変わるわけでも無い。梓弓が小さな声で返事をすると、すぐに蜜壺はもう一人の精液で満ちて行った。


(どうして、どうして……満たされないの)

梓弓は俯いたまま衣服を整えていた。吐精した上司たちは皆 帰り、薄暗いオフィスには暗い顔をした梓弓だけが取り残されていた。

梓弓はいつも同じ時間の電車で帰宅する。ちょうど混み合う時間帯。毎日 決まった車両に乗っていると、自然と顔見知りも出来る。
四方を取り囲んでいるのは皆が馴染んだ顔。今日も男たちは梓弓の身体を寄ってたかって触っていた。

「……ん」

一人がスカートを捲り上げ、ショーツの隙間から指を押し込んだ。梓弓の蜜壺は万年床かと言うくらい常に湿っていて、愛撫が無くても指を簡単に受け入れて呑み込んでしまう。

(ああ……そんな風にされたら、欲しくなってしまう)

梓弓は小さく喘ぎながら俯いたまま腰をよじった。別の男が梓弓の上着とブラウスのボタンを外し、中の下着を半分だけ上にずらした。

「ん、ん……っああ」

電車の走行音は梓弓の小さな嬌声など容易く掻き消す。半分だけ捲り上げられたブラジャーが乳頭を擦っていて、そこに指を這わせられると ますます喘がずにはいられなかった。
グチュグチュと膣内を掻き回される音と、漏れ出る嬌声は果たしてどちらが大きいのか分からない。だけど取り囲んでいる男たちの壁は全てを覆い尽くしている。

「っく、あ……あんんっ!」

指を埋め込んでいたはずの男が今度は大きな楔を打ち込んで来た。梓弓は男の律動に合わせて腰を振る。
乳房は今や完全に剥き出しで、また別の男がしゃぶり始めたところだった。

「あ、ふぅっ、アアーー……!」

終わりは近い。もうすぐ、終着駅。

梓弓の自宅は閑静な住宅街の一軒家。夕飯を作り、夫の帰りを待つ間に一人で秘所を弄る。

(早く……早く帰って来て、大輔さん)

薄暗い部屋でソファに座り、夫にされているのを妄想しながら身体を震わせていると、ガチャン、と玄関扉が開く音がした。
梓弓は着衣を整えて、主の元へ駆け寄る。

「大輔さん、お帰りなさい」

「ただいま、梓弓」

頬にキスを落とされ、梓弓は熱っぽく大輔を見上げた。

「ご飯、出来てるけど……お風呂と、どっちにする?」

「ん……風呂からにしようかな。お前も入るだろ」

梓弓は頷いて微笑み、大輔の上着を受け取った。

***

「あ……ん、ん……っ」

湯船に浸かったまま、梓弓は大輔に後ろから羽交い締めにされていた。

「ヌルヌルとよくもこんなに出て来るなぁ。梓弓のま●こは本当に際限が無い」

「あ、あ……いやだ、焦らさないで……っく、ふぅ」

「イきたいか? まだダメだぞ」

「っふ、ぁあ!」

膣肉を腹部に向かってグンッと力強く押され、梓弓は大輔の肩に頭をもたれかかって仰け反った。

「っや、んん……いっちゃう、イっちゃうぅぅ」

「まだダメだと言ってるのに」

大輔の行為はいつも矛盾している。湯面が波立つほどに激しく膣内を弄りながら、口では絶頂してはいけないと咎める。だけどその抑制が、いつも快感を増幅させていた。


「はぁ……ぅ、んん」

湯船の中で達した梓弓はグッタリと脱力し夫に身体を預けていた。すると、

「梓弓……そろそろ夫婦別姓はやめようか」

ドクン、と心臓が跳ねた。結婚して三年、自分は子を宿せない身体なのだと知って一年が経っていた。結婚した当初、子どもが出来たら仕事を辞めて同じ姓を名乗ろうと決めていた。だけどいつまで経ってもそれは訪れない。コウノトリは、やって来ない。

「梓弓は、子どもが嫌い?」

大輔は梓弓の身体を包んだまま穏やかに言った。

「好きよ。ずっと、欲しいと願ってる……」

子どもが欲しくて、誰の子でもいいから欲しくて、取り憑かれたように性行為をしているのだとしたら、それは滑稽な言い訳なのかもしれない。

「でも、私は産めない。子どもを宿せない」

「……養子を取ろう? もう、苦しまなくていい」

梓弓は こうべを上げて夫を振り返った。

(苦しい……私が?)

彼にはそんな風に見えていたのだろうか。自分でも気づかぬ内に、苦しんでいたと言うのか。
この見えない苦しみが、絶頂間際に幻覚を見せていたのだろうか。

「……ええ」

頬を伝う涙だけが、その答えを知っている。


FIN.

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