青年侯爵は今日も義妹をかわいがる 《 序章 03

 両親が他界し侯爵領を継いでからもルイスはカタリーナをブレヴェッドの邸に置いていた。
 ボードマン男爵はあれから五年をかけて事業を立て直したが、亡き両親はカタリーナを彼らのもとに返さなかった。ルイスもまた、カタリーナを手放したくなかった。男爵家の事業はまたいつ傾くかわからない。そうなればまた、カタリーナを放り出されかねない。あるいは、政略結婚の駒にされてしまうのではないかと思った。
 カタリーナが社交界デビューして以来、しおらしく可憐な彼女には毎日のように複数の縁談が舞い込んでくるものの、ルイスは相手を確かめもせず片っ端から断っている。

(カタリーナに結婚なんて……まだ早い)

 はじめのころはそう言って縁談を断っていたが、それからもう三年だ。最近は縁談を断る理由づくりに四苦八苦している。
 カタリーナを貶めるような理由はつけたくない。彼女に欠点などひとつもないからだ。
 むしろ、義妹を溺愛しすぎている自分こそが彼女の唯一の弱みになっているのかもしれない。
 一日の執務を終えたルイスはベッド端に腰掛け、大きなため息をついた。

(もし僕が彼女に求婚したら……カタリーナはどう思う?)

 彼女にとって自分はかけがえのない兄には違いないだろう。ただ、カタリーナがそれ以上の関係を望んでいるのかどうか、まったくわからないのだ。
 コン、コンッと控えめに寝室の扉がノックされる。ルイスはすぐに「どうぞ」と入室をうながした。
 木製の茶色い扉からひょっこり顔を出したのはカタリーナだ。
 カタリーナが十八歳になったいまもなお、ルイスは彼女と寝室をともにしている。
 カタリーナは毎晩、枕を持ってこの部屋へやってくる。トコトコと歩いて部屋のなかへ入ってくるようすは幼いころからなんら変わらない。
 艶のある茶色い長い髪にヘーゼルナッツを思わせる愛らしい瞳も昔から彼女が持ち合わせているものだ。
 ただ、ここ数年で胸のふくらみが一段と大きくなった。腰はくびれ、全体的に丸みを帯びた、いかにも女性らしい体つきになった。

「……おいで」

 ルイスはベッドの上に肩肘をついて頭を支え、カタリーナを手招きする。
 カタリーナは嬉しそうに「はい」と返事をしてベッドに上がり込んでくる。
 同じベッドで寝るからといって隙間なくピタリと寄り添う必要はないのだが、もう十年以上こうして密着して眠っているのでそれが当たり前のようになっている。
 ルイスはカタリーナの腰に腕をまわしてぎゅっと抱き寄せた。彼女はそれを少しも嫌がらない。

(……また、大きくなった……?)

 たとえネグリジェを着ていても、カタリーナの乳房は豊満なのがよくわかる。彼女のふくらみはいつも胸板に当たる。

「おにいさま、おやすみのキスは?」

 その言葉も、もはや習慣のようなものだ。
 ルイスは「ああ」と答えてカタリーナのあごに手を添えて頬に触れるだけのキスをする。
 すると彼女がにっこりと極上の笑みを浮かべるものだから、愛しさが腹の底から込み上げてきて、唇にも触れたいのを必死にこらえることになる。

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