青年侯爵は今日も義妹をかわいがる 《 第一章 01

 カタリーナ・ボードマンは義兄、ルイス・ブレヴェッドの執務室で書類の整理をしていた。
 ルイスはブレヴェッド侯爵領の主として日々を忙しく過ごしている。
 邸内で自分だけがのんびりしているのは気が引けて、なにか手伝いをさせてもらえないかと申し出たところ、はじめは「なにもしなくていい」と言って断られたが、ごく最近になって簡単な仕事を任されるようになった。

「おにいさま、こちらの書類は並び替えが終わりました」

 カタリーナは執務机の向こうにいるルイスに書類の束を渡す。

「ありがとう。早いね。じゃあ……こっちも頼もうかな」

 そうしてルイスから書類の束を差し出されたカタリーナは満面の笑みで「はいっ」と返事をして紙束を受け取った。

(少しはおにいさまのお役に立ってる――のかな?)

 私の手伝いなんてかえって迷惑になるだけかもしれない、とも思ったが、日ごろからルイスのそばで彼の仕事ぶりを見てきた。領地の視察にだっていつもついて行っているから、なにもわからないわけではない。

(役に立っているのなら……すごく嬉しい)

 ルイスには幼いころからずっと優しくしてもらっている。血のつながりのない、赤の他人である自分に彼は本当の家族のように接してくれる。
 そんな優しい義兄に、カタリーナは恩を感じていた。

(私はきっと結婚できないだろうから、このまま……おにいさまを手伝ってこの邸で過ごしていきたい)

 社交界デビューして三年。もう十八歳になるが、一度も結婚を申し込まれたことがない。
 自分には魅力がないのだろうとあきらめて、カタリーナは義兄に恩を返すことだけを考えるのである。

「カタリーナ、少し休憩にしよう」
「はい」

 ルイスが椅子から立ち上がり、執務室の中央にある大きなソファに腰掛ける。
 カタリーナは書類を傍机の端に置き、ルイスの向かいのソファに座った。
 壁際に控えていたメイドが二人分の紅茶を淹れてくれる。
 香り立つ紅茶を一口だけすすってソーサーへ戻す。
 正面に座っているルイスが優雅な仕草で紅茶を飲むのをただ眺める。
 まばゆく輝かんばかりの金髪は襟足が短く、いつだって清潔感がある。深い海を思わせる瞳は澄みきっていて、その双眸で見つめられるとにわかに心臓がどきどきと暴れはじめるので不思議だ。

「……どうかした?」
「えっ!? いえ、なんでもありません」

 カタリーナはコホンと咳払いをして、ふたたび紅茶を飲んだ。

(いけない、つい……魅入ってしまった)

 男性ながらこれほどの美貌を持ち、また何事もスマートにこなす彼だ。茶会や舞踏会ではいつも、ルイスのまわりを多くの令嬢が取り囲む。

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