「もう、いいわ……。ありがとう、オーガスタス。気が済んだ。占いで示されたことは実行できたわ」
「へえ、そう。でも僕の気は済んでない」
「――っ!?」
れろりと無遠慮に首すじを舐め上げられて総毛立つ。
「なっ、なにするのよ!」
「花蜜のような味がする。おいしい」
「う、うそ……!」
「うん、嘘だよ。でも、うまいのは本当。ちょうどのどが渇いていたし、塩分が欲しいところだった。もっとちょうだい」
背中と腰にまわっていた腕に力が込められた。彼の体を押しのけたいけれど、胸を押さえている腕は最後の砦のような気がして放せない。
「んっ、く……!」
オーガスタスの赤い舌が耳の下を這う。人間の舌はこれほどまでに大きく熱かっただろうかと考えてしまう。ざらついた舌にねっとりと舐め上げられ、ぞくぞくとわき腹のあたりが疼く。それを助長するように彼の手がそこを撫で上げる。
「やっ……! あ、ぁ」
両腕は胸だけでなくわき腹も押さえていたのだが、強引に彼の手が滑り込んできた。リルの素肌をゆっくりと這いまわり、あやしくうごめく。
「やっ、やめ、て……! へ、へんなことしないって、言ったじゃない!」
「うん、水分補給をしているだけだよ。ねえ、この谷間のところも舐めていい? ここのほうが首すじよりももっと汗をかいてる」
「なっ……!?」
こぶしになっていた手をパッとひらいて谷間を隠すものの、指と指のあいだに彼のそれがはまり込む。オーガスタスはリルの手の甲を覆い、ふたつのふくらみの境界をふにっ、と人差し指で押した。
「ゃっ!」
小さな悲鳴を上げて身をすくませる。いま彼の前に裸でいることすら有りえないのに、先ほどから素肌に触れられて困惑している。リルは西の王子の体液を搾取したそのあとのことはなにも考えていなかった。あとから思えばとても浅はかだった。
「っ、う……!」
運動しているわけでもないのに息が弾む。いっぽうのオーガスタスはリルの反応を愉しむように唇の端を上げて身をかがませた。
宣言どおり谷間の汗を舐めるつもりなのだ。
「だっ、だめ……! やめて」
「どうして」
オーガスタスは動きを止めずにリルに尋ねた。頭を低くしていく彼の白金髪がさらりと揺れる。
「ど、どうしてって……」
嫌だからとか、恥ずかしいからとか、理由はたくさんあるはずなのに言葉になって出てこない。そうしているあいだに彼の舌が鎖骨の下までやってきてしまった。
リルが両胸を押さえているせいで谷間はくっきりと浮かび上がっていた。その明確な境界を、オーガスタスはひどく緩慢に舌で舐め上げる。
「んっ、ぅ……!」
くらくらとめまいがしてきた。湯あたりなのか、羞恥でそうなっているのかわからない。
官能的に這うオーガスタスの舌のこと以外はなにも考えられなくなりそうだった。
「ゃっ……、もうだめ……! のぼせてしまいそう」
やっとの思いでそう告げると、オーガスタスの動きはぴたりと止まった。
「え、それはたいへんだ。すぐに上がろう」
「ひゃっ!?」
くらくらしていた視界が今度はぐらぐらと揺れた。
オーガスタスはリルを横向きに抱きかかえ、ザバッ、と大きなしぶきを上げて風呂から出た。呆然とするリルには目もくれず、濡れた体のまま歩く。
「タオルはこれを使えばいいのかな」
オーガスタスの問いかけに、こくりとうなずく。
リルはふだんから裏庭の露天風呂を使っているから、裏口から家のなかに入ってすぐのところにタオルを常備している。
バスタオルをふわりと体にかけられた。
「あ、あの……」
やわらかいバスタオルに包まれたままベッドに寝かされる。
リルの屋敷は部屋の区別がはっきりしていない。キッチンもリビングも、それからベッドもひとつの部屋に集約してある。ベッドのまわりには背の低い衝立を置いているが、長身のオーガスタスがリルの寝床を見つけるのは簡単だったようだ。
「長いこと馬に乗っていて疲れているのもあるかもね。ゆっくりおやすみ、リル」
リルの濡れた黒髪を拭きながらオーガスタスがささやいた。
もともとはっきりしていなかった頭のなかは、さらにぼんやりともやがかかっていく。
(なんだかすごく落ち着く……)
頬に触れる温かく優しい手にいざなわれ、リルはあっという間に眠りについた。
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「へえ、そう。でも僕の気は済んでない」
「――っ!?」
れろりと無遠慮に首すじを舐め上げられて総毛立つ。
「なっ、なにするのよ!」
「花蜜のような味がする。おいしい」
「う、うそ……!」
「うん、嘘だよ。でも、うまいのは本当。ちょうどのどが渇いていたし、塩分が欲しいところだった。もっとちょうだい」
背中と腰にまわっていた腕に力が込められた。彼の体を押しのけたいけれど、胸を押さえている腕は最後の砦のような気がして放せない。
「んっ、く……!」
オーガスタスの赤い舌が耳の下を這う。人間の舌はこれほどまでに大きく熱かっただろうかと考えてしまう。ざらついた舌にねっとりと舐め上げられ、ぞくぞくとわき腹のあたりが疼く。それを助長するように彼の手がそこを撫で上げる。
「やっ……! あ、ぁ」
両腕は胸だけでなくわき腹も押さえていたのだが、強引に彼の手が滑り込んできた。リルの素肌をゆっくりと這いまわり、あやしくうごめく。
「やっ、やめ、て……! へ、へんなことしないって、言ったじゃない!」
「うん、水分補給をしているだけだよ。ねえ、この谷間のところも舐めていい? ここのほうが首すじよりももっと汗をかいてる」
「なっ……!?」
こぶしになっていた手をパッとひらいて谷間を隠すものの、指と指のあいだに彼のそれがはまり込む。オーガスタスはリルの手の甲を覆い、ふたつのふくらみの境界をふにっ、と人差し指で押した。
「ゃっ!」
小さな悲鳴を上げて身をすくませる。いま彼の前に裸でいることすら有りえないのに、先ほどから素肌に触れられて困惑している。リルは西の王子の体液を搾取したそのあとのことはなにも考えていなかった。あとから思えばとても浅はかだった。
「っ、う……!」
運動しているわけでもないのに息が弾む。いっぽうのオーガスタスはリルの反応を愉しむように唇の端を上げて身をかがませた。
宣言どおり谷間の汗を舐めるつもりなのだ。
「だっ、だめ……! やめて」
「どうして」
オーガスタスは動きを止めずにリルに尋ねた。頭を低くしていく彼の白金髪がさらりと揺れる。
「ど、どうしてって……」
嫌だからとか、恥ずかしいからとか、理由はたくさんあるはずなのに言葉になって出てこない。そうしているあいだに彼の舌が鎖骨の下までやってきてしまった。
リルが両胸を押さえているせいで谷間はくっきりと浮かび上がっていた。その明確な境界を、オーガスタスはひどく緩慢に舌で舐め上げる。
「んっ、ぅ……!」
くらくらとめまいがしてきた。湯あたりなのか、羞恥でそうなっているのかわからない。
官能的に這うオーガスタスの舌のこと以外はなにも考えられなくなりそうだった。
「ゃっ……、もうだめ……! のぼせてしまいそう」
やっとの思いでそう告げると、オーガスタスの動きはぴたりと止まった。
「え、それはたいへんだ。すぐに上がろう」
「ひゃっ!?」
くらくらしていた視界が今度はぐらぐらと揺れた。
オーガスタスはリルを横向きに抱きかかえ、ザバッ、と大きなしぶきを上げて風呂から出た。呆然とするリルには目もくれず、濡れた体のまま歩く。
「タオルはこれを使えばいいのかな」
オーガスタスの問いかけに、こくりとうなずく。
リルはふだんから裏庭の露天風呂を使っているから、裏口から家のなかに入ってすぐのところにタオルを常備している。
バスタオルをふわりと体にかけられた。
「あ、あの……」
やわらかいバスタオルに包まれたままベッドに寝かされる。
リルの屋敷は部屋の区別がはっきりしていない。キッチンもリビングも、それからベッドもひとつの部屋に集約してある。ベッドのまわりには背の低い衝立を置いているが、長身のオーガスタスがリルの寝床を見つけるのは簡単だったようだ。
「長いこと馬に乗っていて疲れているのもあるかもね。ゆっくりおやすみ、リル」
リルの濡れた黒髪を拭きながらオーガスタスがささやいた。
もともとはっきりしていなかった頭のなかは、さらにぼんやりともやがかかっていく。
(なんだかすごく落ち着く……)
頬に触れる温かく優しい手にいざなわれ、リルはあっという間に眠りについた。