リルは身をかがめて薬草を摘み、持ってきていたカゴに次々と詰め込んでいった。
「摘みかたは適当でいいのかな」
リルと同じようにひざを折ったオーガスタスが彼女のとなりにぴたりとくっつく。リルが薬草を摘むのをじいっと見つめている。
「そうね、これといって特殊な摘みかたはしていないわ。たんに葉っぱをもぎ取っているだけ」
「じゃあ僕も手伝うよ」
「青と金の葉だけをお願いね」
うん、とあいづちを打ってオーガスタスも葉を摘み始めた。プチプチとちぎり、リルが持つカゴのなかへ放り込む。
「――おふたりは、仲がよろしいんですね」
リルはぎくりとして薬草を摘む手を止めた。
(マレット男爵の存在をすっかり忘れていたわ)
そもそもマレットの前で仲がよくないふりをする必要などないのだが――。いや、それでは仲がよいと肯定しているようだ。
(べ、べつに、オーガスタスとは仲がいいわけじゃ……)
彼が気さくだから敬語を使っていないだけ、それだけだ。しかし話しやすさという点では、マレットよりもオーガスタスのほうが勝っている。年下だというのもあるかもしれない。
リルはただあいまいにほほえんでうしろを振り向いた。どういうふうに答えればよいかわからない。
マレットは大きな肩をすくめて、リルとオーガスタスのあいだに割って入った。肩身が狭そうだ。
「この薬草……オーガス殿の瞳のようですね」
薬草摘みを再開していたリルの手の動きがふたたび止まる。
(そ、その話は……)
オーガスタスは左右で異なる色の瞳を少なからず気にしている。リルはちらりと白金髪の男を見やった。あいかわらずひとのよさそうな笑みを浮かべているが、なにも言わない。
「……とても綺麗だ」
マレットは青と金の葉を見つめてぽつりとつむいだ。それを聞いたオーガスタスがにいっと愉快そうに口角を上げた。
「マレット男爵、僕を口説いているんですか?」
「は、はあっ? なぜそうなるんです。俺はただ正直な感想を言っただけだ」
「そうですか。ほら、マレット男爵も葉っぱを摘んでみてはどうですか? けっこう楽しいですよ」
マレットはめずらしく口を尖らせ、不満そうな表情を浮かべた。なにが不満なのかはリルにはわからない。
「ええ、そうですね」
ぷちっ、と金色の葉をちぎったマレットは、葉脈を指で撫でたあと、葉をカゴのなかへそっと入れた。
薬草を摘み終えた三人はリルの屋敷へ戻り、そのまま昼食をとった。シェフはもちろんリルだ。
「レディ・マイアー。ご馳走様でした」
リルはマレット男爵と玄関先で向かい合っていた。オーガスタスはというと、皿洗いをしてくれている。
王子様にそんなことができるのかと疑問だったが、思いのほか要領よくこなしている。元来、器用なのだろう。
「いいえ、こちらこそ。薬草摘みを手伝っていただき、ありがとうございました」
「……あの、レディ・マイアー。オーガス殿についてですが」
「はい?」
マレットが頭を低くしてリルの耳もとに顔を寄せる。
「彼は人懐っこくて無害そうに見えますが、それでもやはり男です。どうかあまり気をお許しにならないように」
「え、ええ……」
「それでは、また」
去っていく彼のうしろ姿はいつもより疲れているように思えた。森のなかを歩いただけでも、疲れているようすだった。
いっぽうのオーガスタスは正反対だ。疲れなどまったく見えず、鼻歌まじりに皿を洗っている。
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「摘みかたは適当でいいのかな」
リルと同じようにひざを折ったオーガスタスが彼女のとなりにぴたりとくっつく。リルが薬草を摘むのをじいっと見つめている。
「そうね、これといって特殊な摘みかたはしていないわ。たんに葉っぱをもぎ取っているだけ」
「じゃあ僕も手伝うよ」
「青と金の葉だけをお願いね」
うん、とあいづちを打ってオーガスタスも葉を摘み始めた。プチプチとちぎり、リルが持つカゴのなかへ放り込む。
「――おふたりは、仲がよろしいんですね」
リルはぎくりとして薬草を摘む手を止めた。
(マレット男爵の存在をすっかり忘れていたわ)
そもそもマレットの前で仲がよくないふりをする必要などないのだが――。いや、それでは仲がよいと肯定しているようだ。
(べ、べつに、オーガスタスとは仲がいいわけじゃ……)
彼が気さくだから敬語を使っていないだけ、それだけだ。しかし話しやすさという点では、マレットよりもオーガスタスのほうが勝っている。年下だというのもあるかもしれない。
リルはただあいまいにほほえんでうしろを振り向いた。どういうふうに答えればよいかわからない。
マレットは大きな肩をすくめて、リルとオーガスタスのあいだに割って入った。肩身が狭そうだ。
「この薬草……オーガス殿の瞳のようですね」
薬草摘みを再開していたリルの手の動きがふたたび止まる。
(そ、その話は……)
オーガスタスは左右で異なる色の瞳を少なからず気にしている。リルはちらりと白金髪の男を見やった。あいかわらずひとのよさそうな笑みを浮かべているが、なにも言わない。
「……とても綺麗だ」
マレットは青と金の葉を見つめてぽつりとつむいだ。それを聞いたオーガスタスがにいっと愉快そうに口角を上げた。
「マレット男爵、僕を口説いているんですか?」
「は、はあっ? なぜそうなるんです。俺はただ正直な感想を言っただけだ」
「そうですか。ほら、マレット男爵も葉っぱを摘んでみてはどうですか? けっこう楽しいですよ」
マレットはめずらしく口を尖らせ、不満そうな表情を浮かべた。なにが不満なのかはリルにはわからない。
「ええ、そうですね」
ぷちっ、と金色の葉をちぎったマレットは、葉脈を指で撫でたあと、葉をカゴのなかへそっと入れた。
薬草を摘み終えた三人はリルの屋敷へ戻り、そのまま昼食をとった。シェフはもちろんリルだ。
「レディ・マイアー。ご馳走様でした」
リルはマレット男爵と玄関先で向かい合っていた。オーガスタスはというと、皿洗いをしてくれている。
王子様にそんなことができるのかと疑問だったが、思いのほか要領よくこなしている。元来、器用なのだろう。
「いいえ、こちらこそ。薬草摘みを手伝っていただき、ありがとうございました」
「……あの、レディ・マイアー。オーガス殿についてですが」
「はい?」
マレットが頭を低くしてリルの耳もとに顔を寄せる。
「彼は人懐っこくて無害そうに見えますが、それでもやはり男です。どうかあまり気をお許しにならないように」
「え、ええ……」
「それでは、また」
去っていく彼のうしろ姿はいつもより疲れているように思えた。森のなかを歩いただけでも、疲れているようすだった。
いっぽうのオーガスタスは正反対だ。疲れなどまったく見えず、鼻歌まじりに皿を洗っている。