森の魔女と囚われ王子 《 第三章 06

「腕をどけて。恥ずかしがることなんてない」
「ゃ……っ」

 抵抗しても無駄なのはわかっていたがそれでも、喜んで裸体をさらす気には到底ならなかった。このあいだはつい流されてしまったが、リルはそもそも性に寛容というわけではない。
 シュミーズの肩ひもがゆっくりと落ちていく。体だけでなく心もひもとかれていくようで、落ち着かない。

「リルの肌……とても温かい」

 首から肩にかけてを両手で覆われた。リルは彼とは逆で、手がとてもつめたいから心地が悪い。熱を奪われている。

「そ、れは……。オーガスタスの体が、すごく冷えているから」

 官能をくすぐるように鎖骨を這う舌がたまらなかったが、リルは平静を装った。

「やけに冷静だね? 心臓の音を聞いてみようか。虚勢かどうか、それでわかる」
「な……っ」

 オーガスタスは横を向き、リルのふくらみに頭を沈める。まぶたを閉じて、心音に耳を澄ませているようだった。
 幼子が母親の胸で眠っているようにも見える。とてもとても大きな、子どもだが。
 黙って彼の白金髪を見おろしていると、ゆっくりと青と金の瞳がまみえた。口もとは弧を描いている。

「早鐘だ。……あんまり緊張すると、最後までするよりも先に壊れてしまうよ」
「最後まで、なんて……しないから、大丈夫」
「あれ、それじゃあ途中までならリルは喜んで受け入れてくれるってこと?」
「そういう意味じゃないわ。曲解はやめて」
「はは。僕はもしかしたら、これまでの人生ほとんどを曲解して生きてきたのかも」

 冗談なのか本気なのか、よくわからない。

(まあたしかに……。オーガスタスは意外と素直じゃないというか)

 でもそれを言うなら自分もそうだ、などと考えていると、プチッとシュミーズの前ボタンを弾かれた。

「ちょっ!? や、やだ、いつの間に」

 あわててシュミーズをつかむが、ときすでに遅い。シュミーズをいっきに腰のあたりまで引きおろされてしまった。とっさに胸もとを両手で覆い隠す。

「いいのかな、そこばかり守っていて。下がとても無防備だよ?」

 にやにやとほほえみながらオーガスタスはシュミーズごとドロワーズまでも引き下げる。

「あっ……」

 片手を伸ばす。しかしこれもまた、あとの祭りだ。結局はすべて脱がされてしまった。
 リルは胸を隠したまま横たわる。足先から手の先まであますところなく視線でなめまわされ、すでにいたたまれない。

「どこから舐めようかな」
「ぅ……」

 品定めでもするように、つめたい指が素肌をたどる。先ほどよりは幾分か温もりが戻ってきている。もしかしたら彼も、興奮しているのかもしれない。

「や、やめて……。そこ、くすぐったい」

 わき腹を指で撫でられている。彼の手を払いのけたいが、それでは胸もとががら空きになってしまうので、できない。

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