森の魔女と囚われ王子 《 第三章 20

 そしてそれは、この刹那だけではない。明日も、明後日も、願わくばずっと――。
 しかしその想いを伝えることはできないし、伝えたところで叶うはずもない。むしろ、公的な手続きを踏まず勝手にこの森へ連れてきてしまったのだから、咎められてもおかしくない。

(オーガスタスは、私が咎められることはないと言っていたけど……)

 なにかしらの罰を受けてでも、いや、もしそうして罰を受けることで彼と一緒にいられるのなら、そのほうがいいのにとさえ思ってしまう。
 ひとりで考えを巡らせて落胆するリルの体をオーガスタスがぎゅうっとうしろから抱きしめる。

「どうしたの? 具合でも悪い?」
「い、いえ……」
「そう……? 元気がないみたいだ。本当に疲れてるんだね」
「ん……っ」

 耳たぶの裏側をぺろりとひと舐めされた。同時に、腰もとにあった両手がふくらみのほうへ這い上がってくる。柔らかな稜線の一歩手前をゆっくりとさすっている。リルの反応を見ているのだろう。

「ねえ、オーガスタス……。その、あなたの国の……城の仕事は、大丈夫なの?」
「ああ、平気だよ。出来のいい弟がいるから。僕がいないときは彼がうまくやっている。まあ、なんの連絡もなしにこれほど長く城を留守にするのは初めてだけど……」

 どくんっ、と不穏に心臓が跳ねた。
 やはり彼はいつまでもここにいるわけにはいかない。そうわかってはいるが、リルの口から出ていけとはとても言えない。

(そもそも私が連れてきちゃったんだから、追い出すなんてできないわ)

 無言のリルを見おろし、オーガスタスが眉尻を下げる。

「……なあに? リルは僕に城に帰ってほしいわけ?」
「そっ……!」

 リルはぐるんと顔を動かして彼を振り返った。神秘的な配色の双眸と視線が絡む。

(……そんなこと、ないけど)

 しかし引き留めるようなことは言える立場ではない。リルはゆっくりとおもてを前へ戻す。陽が落ちて、暗闇の気配が増している。

「そ……れは、あなたが決めることだわ」

 ずいぶんと間があった。薄暗闇のなかの静寂は妙にこたえる。

「……そう、だね」
「っ、ひゃ……!」

 乳房を下から持ち上げられた。ぐにゃぐにゃと揉み込まれていて、いつもよりも――先ほどよりもどことなく荒々しい。
 首すじにちくりと痛みがほとばしる。それが、リルの素肌に赤い痕跡を残す行為だとわかっているが、なぜ彼がそれをほどこすのか、その意味までは理解していなかった。

「ぁ、う……っ。は、ぁぁ……っ」

 尻に当たっている硬直の主張が激しい。求められているのがよくわかる。こたえたい気持ちがないわけではないが、湯のなかでいったいどうすればよいのかわからない。

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