森の魔女と囚われ王子 《 第四章 02

 それから三人は手分けして少年の落とし物を探した。手分けといっても、大声で呼び合えば居所がわかる範囲で、だ。

(うーん……見つからないわね)

 森は木々が生い茂りうっそうとているものの、陽が高くなってきたので木漏れ日が地面を照らしていて、明るい。
 リルは葉や草をかきわけて茶色い小袋を探していた。

「ねえ、きみ。木登りはしなかった?」

 リルは地面にうずくまっている少年に向かって大きな声で言った。
 もしかしたら木の枝に引っかかっているのかもしれない。もしそうならば、地面ばかり探していては見つからない。
 しかし少年からの返事はない。

「……どうしたの?」

 少しだけ近づいてみると、少年が苦しそうに咳をしているのがわかった。

「ちょっ、きみ……!」

 小さな体がぐらりと揺らぐ。リルはとっさに駆け出し、少年が草むらのうえに倒れる寸前でなんとか受け止めた。

「きみ、しっかりして……っ」

 震え声で呼びかける。けれどやはり返事はない。とても苦しそうに、ゼイゼイと息をしている。

「――どうかした?」

 リルはバッ、と勢いよく顔を上げてオーガスタスを見つめた。その目にはあせりと困惑の涙が浮かんでいる。

「それが、急に倒れちゃって……! ど、どうしよう」
「うん。リルはそのままこの子を支えていて」
「え、ええ」

 微動だにせず座り込んだまま、少年の体を支え続ける。リルとは対照的にオーガスタスはとても落ち着いていて、脈をはかったり、口や目のなかをのぞいたりしている。

「ここから街の病院へ行くのと、リルの屋敷に戻るのではどちらが近い?」
「ええと……。街のほうが近いと思うけど、ここからじゃ……道がよくわからないわ」
「そう。じゃあひとまず屋敷に戻ろう。ああ、屋敷までの道順は僕も覚えているから、安心して」

 オーガスタスはパチリと片目をつぶってウィンクをしたあと、少年を背負って歩き始めた。走りはしていないものの、大股の早歩きだ。歩幅がせまいリルは小走りでついていく。

「ところで、リルの家にゼンソフィアの抑制薬はある?」
「ごめんなさい、ないわ」
「かまわないよ。それじゃあ――」

 それからオーガスタスはリルの屋敷に貯蔵している薬草の種類をことこまかに聞いてきた。
 そうこうしているあいだに屋敷に到着した。少年はあいかわらず息苦しそうにしている。

「ソファに座らせよう。寝かせるのはよけいによくないから」

 少年の背を下からうえへそっと撫で上げながらオーガスタスは言う。

「じゃあ、ひとまずミンティスのオイルをちょうだい」
「は、はい」

 オーガスタスは医学には明るいと言っていたが、薬草にも詳しかったのかと驚きつつ、言われたとおりにアロマ用のオイルであるミンティスの小瓶を薬棚から取り出して彼に渡した。

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