「ありがとう。それじゃあ次は、ゼンソフィアの薬を調合してくれるかな。あなたがふだん扱っている材料で作ることができるから安心して。コリメウスの葉とケアシンの実、それから――……」
「――っ、ごめんなさい、とても覚えきれない。書きとめさせて」
薬の材料はたしかに彼が言うとおり、屋敷のなかにすべて取りそろえてあるが、種類が多すぎて一度聞いただけではとても覚えられなかった。息苦しそうにしている少年に対してオーガスタスは街の病院へ連れていくのではなく薬を調合することを選んだ。それはきっと、少年が切迫した状況だからなのだと思う。そう考えると、平常心ではいられない。
(ううん、私があせってどうするの……。薬草の種類は多いけど、調合にはさして時間はかからない)
リルは深呼吸をして、書き物机から羊皮紙を取り出し、羽根ペンをかまえた。
「あせらなくていいからね、リル」
オーガスタスは明瞭な発音で、ゆっくりと薬草の名をつむいでいく。
「――この子には僕がついているから、安心してね。大丈夫だから……いつもどおりに、薬を調合して」
「ええ」
リルは羊皮紙で材料を確認しつつ薬棚から薬草を取り出して、作業台に並べる。
指先は震えている。しかし分量をはかり間違えるわけにはいかない。リルは両手で薬さじをにぎり、調合作業を進めた。
「――うん、薬が効いたみたいだね」
少年に調合薬を飲ませてから小一時間が経った。少年はいまだに眠っているが、呼吸は落ち着いている。オーガスタスは彼をベッドへ運び、ゆっくりと寝かせた。
「ん――……」
すると少年が目を覚ました。ぼうっとしたようすでオーガスタスを見つめている。
「おはよう。気分はどう?」
「う、ん……。平気」
「そう。少し話をしてもいいかな? ああ、そのままでいいから」
起き上がろうとする少年に向かって手のひらをかざしてオーガスタスは続ける。
「きみが落とした袋のなかには、発作を抑える薬が入っていたんだね?」
少年は眉尻を下げて静かにうなずく。
「とても高価な薬だから……。失くしたら、たいへんなんだ」
「そうだね。お金はもちろん大事だけど、きみの命あってのことだ。今度またもしそういうことがあったら、すぐに家に戻って家族に言うんだ。いいね? 怒られるかもしれないけど、命には代えられない」
「……はい」
肩をすくめて返事をする少年の頭を、オーガスタスが撫でる。
「このまま眠るといい。……といっても、きみのおうちのひとが心配するといけないから、ほんの少しだけ、ね」
「うん。……お兄さん、お医者さんなの?」
「いいや、王子様だよ」
リルは思わず「ぷっ」と息を吹き出した。
「なんで笑うの、リル」
「だ、だって……!」
少年はオーガスタスが冗談を言ったのだと思ったらしく、首をかしげながら笑っている。
元気そうな少年のようすにようやく安心して、リルは胸を撫でおろした。
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「――っ、ごめんなさい、とても覚えきれない。書きとめさせて」
薬の材料はたしかに彼が言うとおり、屋敷のなかにすべて取りそろえてあるが、種類が多すぎて一度聞いただけではとても覚えられなかった。息苦しそうにしている少年に対してオーガスタスは街の病院へ連れていくのではなく薬を調合することを選んだ。それはきっと、少年が切迫した状況だからなのだと思う。そう考えると、平常心ではいられない。
(ううん、私があせってどうするの……。薬草の種類は多いけど、調合にはさして時間はかからない)
リルは深呼吸をして、書き物机から羊皮紙を取り出し、羽根ペンをかまえた。
「あせらなくていいからね、リル」
オーガスタスは明瞭な発音で、ゆっくりと薬草の名をつむいでいく。
「――この子には僕がついているから、安心してね。大丈夫だから……いつもどおりに、薬を調合して」
「ええ」
リルは羊皮紙で材料を確認しつつ薬棚から薬草を取り出して、作業台に並べる。
指先は震えている。しかし分量をはかり間違えるわけにはいかない。リルは両手で薬さじをにぎり、調合作業を進めた。
「――うん、薬が効いたみたいだね」
少年に調合薬を飲ませてから小一時間が経った。少年はいまだに眠っているが、呼吸は落ち着いている。オーガスタスは彼をベッドへ運び、ゆっくりと寝かせた。
「ん――……」
すると少年が目を覚ました。ぼうっとしたようすでオーガスタスを見つめている。
「おはよう。気分はどう?」
「う、ん……。平気」
「そう。少し話をしてもいいかな? ああ、そのままでいいから」
起き上がろうとする少年に向かって手のひらをかざしてオーガスタスは続ける。
「きみが落とした袋のなかには、発作を抑える薬が入っていたんだね?」
少年は眉尻を下げて静かにうなずく。
「とても高価な薬だから……。失くしたら、たいへんなんだ」
「そうだね。お金はもちろん大事だけど、きみの命あってのことだ。今度またもしそういうことがあったら、すぐに家に戻って家族に言うんだ。いいね? 怒られるかもしれないけど、命には代えられない」
「……はい」
肩をすくめて返事をする少年の頭を、オーガスタスが撫でる。
「このまま眠るといい。……といっても、きみのおうちのひとが心配するといけないから、ほんの少しだけ、ね」
「うん。……お兄さん、お医者さんなの?」
「いいや、王子様だよ」
リルは思わず「ぷっ」と息を吹き出した。
「なんで笑うの、リル」
「だ、だって……!」
少年はオーガスタスが冗談を言ったのだと思ったらしく、首をかしげながら笑っている。
元気そうな少年のようすにようやく安心して、リルは胸を撫でおろした。