森の魔女と囚われ王子 《 第四章 09

 ――溺れている。

 全身に蔦を巻き付けられて喘がされた日からまだ数日も経っていない、ある昼下がり。
 リルは心もとない格好で皿洗いをしていた。

「オーガス、タス……ッ! やっ、やめて」
「えー? どうしようかな」

 嬉々としたようすで、声を弾ませてオーガスタスは手と口を動かす。

「だってすごく素敵だよ? リルのこの格好」
「すっ、素敵なわけ……なっ……っ、ん、ぅぅ……!」

 リルが身につけているものはただひとつ。フリルがついたピンク色のエプロンだけだ。
 この薄布はいちおう大切なところを隠しているが、背後に立つオーガスタスにはお尻が丸見えだし、生地が乗っかっているだけの秘部はとても無防備だ。
 オーガスタスはそんなリルの体をエプロンごしに手探りしている。ふくらんだところの尖った部分を、生地のうえからこちょこちょとくすぐっているのだ。

「ピンク色が透けて濃くなってるね。色っぽくて、たまらない。ねえ、舐めてもいい?」
「だ、だめ……! まだ、洗い物が……」
「そんなの、あとで僕がしておくから」
「なっ……。あなたが私に『皿洗いをして』って言うから……!」

 このピンク色のエプロンを身につけて皿洗いを始めたところ、オーガスタスになかのドレスだけを奪い取られてしまっていまに至る。

「まあまあ、細かいことは気にしないで。ほら、こっちを向いて」

 強引にくるりと体を回転させられた。濡れた手からポタポタと雫が床に落ちる。
 オーガスタスは身をかがめ、ふくらみを両手におさめた。エプロン生地がいただきにこすれて、それだけで感じてしまい、恥ずかしくなる。

「ふ、ぅ……っ」

 下からの視線がいたたまれない。オーガスタスは挑発的にリルを見上げ、ふくらんだ部分をゆっくりと揉み込み、薄桃色の先端を生地のうえに際立たせ、そこへすかさず舌を這わせた。

「ぁっ……」

 生温かい舌の感触がエプロン生地を伝ってくる。濃い桃色に染まってしまったそこを、オーガスタスは舌や歯で刺激する。
 リルはふと思った。
 彼をここに連れてきた目的はなんだっただろう。

(ああ……。そうよ、体液……)

 しかしそんなもの、もはやどうでもよくなっている。
 彼との甘やかな戯れに、盲目的に溺れている――。

 コン、コン、とひかえめにドアノッカーが鳴った。
 快楽の海を漂っていたリルはその音で陸地に――現実に引き戻される。

「……マレット男爵かしら?」

 ぽつりと言うと、オーガスタスは不愉快そうに唇を引き結んだ。

「なにも聞こえなかったよ」

 白々しくつぶやくオーガスタスだが、すぐに否定される。ふたたびコンコンッ、と今度は先ほどよりも明確に玄関扉がノックされた。

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