雨の香り、蜜の気配 《 05

「意地悪、いじわるっ……!」

 顔をふたたび脱衣所の壁のほうに戻してブツブツと愚痴を言った。
 絶頂寸前でおあずけにされてしまったカラダは、いまやどうしようもない状態になっている。愛液が、トロトロと太ももを伝い落ちているのがよくわかった。

「……っ、ん!」

 空虚さに戸惑ってヒクヒクと震える身の内に、猛りきった肉杭がジワジワとじれったさをともなって打ち込まれていく。

「雫はコッチよりも指のほうが好きなのか?」
「ぁ、はぁっ……! そ……いう、わけじゃ……なくて……。んっ、うぅっ」

 不満なのは、寸止めされたことに関してだけだ。彼の硬直に貫かれるのが嫌なわけでは決してない。腰が揺れてきて、肉棒を誘い込むような動きをしてしまうのは体も悦んでいる証拠だ。

「はあ……。あいかわらずだな、きみのナカは」
「……っ? それって、どういう意味――っあ、んぁぁッ!」

 話の途中で急に肉茎を突き動かすのはやめてもらいたいものだ。舌を噛んでしまいそうになるし、まさしく不意打ちだ。達しかけていた体には刺激が強すぎる。

「やぁっ、あっ、ふぅぅっ……!」
「まだイクなよ?」

 抑制するような言葉とは裏腹に蓮沼は楔を激しく出し入れして雫をまくしたてる。ぬちゃっ、ぐちゅちゅっという水音が卑猥でならない。

「むっ、り……! ひぁっ、ぅう……ンンッ」

 雨で湿っていた体が、いまは汗と蜜でしとどに濡れている。なんの役にも立っていないブラジャーとショーツが邪魔くさい。

「あぁぁっ、ぅう――……!!」

 暑くて、熱くて。耳に吹きかかる愛しい彼の息が心地がよくて、官能的で。どれだけ我慢しても、絶頂せずにはいられなかった。
 ビクッ、ビクンと内側を震わせる。彼のそれもどうやら達したようで、ありありと脈動している。
 ふたりはズルズルと床に座り込んだ。
 蓮沼が雫の顔をのぞき込む。頬にちゅうっと吸い付いたあと、彼女の体をクルリと回転させた。
 額に汗をかいた彼と向かい合う。

「――いまからじゃジューンブライドには間に合わないか」

 ポツリと言われ、面食らう。雫はパチパチと何度もまばたきをした。

「……なんの話ですか?」
「そろそろ頃合いかと思うんだ。俺は今年で34になるし」
「え、っと……それって、あの」

 パクパクとせわしなく動く雫の唇に、蓮沼はそっと人差し指を押し当てて言う。

「だから――……」

 彼の口が率直なプロポーズの言葉をつむぐのを、雫は惚けた表情で見つめていた。

FIN.

お読みいただきありがとうございました!

熊野まゆ

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