雨の香り、蜜の気配 《 04

「裕貴さん……っ」

 雫は彼の名を何度も呼んで急かした。しかしまだ、じりじりと焦燥感ばかりがひた走る愛撫ばかりだ。

「い、やぁ……っ。裕貴さん、早く……。はやくっ……!」

 腰をくねらせて哀願する。はしたないとか、そういう感情はとうの昔に闇のなかだ。

「……そうして可愛らしくねだってくる淫乱なきみが、俺はたまらなく好きだ」

 小さな、とても小さな声でそうつぶやき、蓮沼は雫のショーツをくるくると丸めながら下へずらし、あられもない状態の秘所に指を突き込ませた。

「ひっ、ぁぅっ!」

 ゴツゴツとした細長い指がズンズンと無遠慮に狭道を進み、最奥を穿って引っかきまわす。
 雫は乾き始めた黒いショートヘアを振り乱して身もだえした。
 ようやくつまみ上げられた乳頭はすでにこれ以上ないというくらいに硬くしこっていて、蓮沼はそこをコリコリと――いや、ゴリゴリと力強く二本の指でひねった。

「ぁぁんっ、はっ、ぅあっ……!!」

 少しくらい痛くされても平気だった。むしろ気持ちがよいと感じてしまう自分にあきれる。それでも、ぐちゃぐちゃに体内をかきまわされて乳首をいたぶられると頭の芯が痺れてきて、身も心も快感一色に染まる。

(ああ……。もう、だめ)

 すぐにでも達してしまいそうだと思った。けれどそれを素直に告げはしない。寸止めされてしまうからだ。

「ぁっ、はぁっ、ぅ……っ」

 なるべく声を抑えて、感じていないふりをする。中途半端にはされたくない。
 しかしそうしてあがいたところで、彼をだませた試しがない。

「……雫。イきそうなんだろ?」

 ビクッと肩を震わせたあと、雫は首をぶんぶんと何度も横に振った。

「きみの嘘はわかりやすいんだ。いいかげんに自覚したらどうだ? 声を抑えても無駄だってことを」
「ゃっ、あぁああ!」

 蜜奥をかき乱されることでくすぶっていた花芽をギュムッと豪快に指で押しつぶされ、声を抑えるどころではなくなった。打算や理性はすべて吹き飛んで、ひたすら喘ぐだけのメスになる。

「あっ、んぁっ、う……! イッちゃ、ぅ、うう……!!」

 失言だった。絶頂しますと宣言なんかしてしまったら、どうなるかわかっていたのに――。

「……!」

 急に一切の指戯がなくなった。パタリと止んでしまった。

(もう少しだったのに……!)

 雫はわなわなと唇を震わせ、目にはうっすらと涙を浮かべ唇を噛み締めた様相で振り返った。蓮沼はしたり顔になる。

「その表情が見たくてつい、な……。きみひとりじゃイかせたくない。悪いとは思ってるさ」

 とんでもない。なにをどう良いほうに解釈しても、ありえない。彼が少しも「悪い」などと思っていないのは明白だった。そんな顔つきをしている。

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