除夜の鐘が響く年の瀬、齋江 優香《さいごう ゆうか》は会社の同僚とともに初詣に出かけていた。こうして初詣に行くメンバーが年々減っていくのは、皆もういい年齢だからだ。
社会人九年目、いよいよがけっぷちである。
仕事に生きると決めた同期入社の友人はむしろ潔い。仕事は好きだ。思い入れだってある。しかし、できることなら結婚もしたい。
(今年こそ結婚できますように!)
優香は神前で手を合わせ、念じるように祈願した。願う時間がずいぶんと長くなってしまったような気がするが、そこは気にしない。
意気揚々ときびすを返して、神社の階段を下りたときだった。時間を確認しようと、コートのポケットを漁ると、寒さで手がかじかんでいたせいかスマートフォンを取りこぼして地面に落としてしまった。
「あっ……」
あわててしゃがみ込み、スマートフォンを拾おうとするものの、境内は人でごった返している。なかなか電話を手に取ることができない。
(あと、もう少し……)
スマートフォンに触れたのと、バキッという音が響いたのはほとんど同時だった。
「あ゛っ……!!」
だれかの足に踏まれたスマートフォンは画面が割れ、見るも無残な姿になってしまった。
「申し訳ございません」
愕然とする優香に、目線を合わせてしゃがみ込んだのはスマートフォンを踏んづけた男性だと思われる。優香は力なく「いえ……」と言いながら彼のほうを見る。思いのほかすぐ近くに男性の顔があって、優香は息が止まりそうになった。
つやのある黒髪、大きな目。目鼻立ちは一見しただけで整っているのがわかる。
(こんなイケメンに踏まれたのなら私のスマホも本望だわ……)
――って、いやいや。
男性の見目があまりにも麗しく、つい惚けてしまっていた。
「弁償します」
無残な姿のスマートフォンを手に取り、男性はその傷み具合を確認したあとでポケットから長財布を取り出した。
「いえ、うっかり落とした私がいけないので……。電話会社の保障にも入ってますから、平気です」
優香は彼の手から壊れたスマートフォンを受け取り、苦笑いする。
「そうですか……? 本当に申し訳ございませんでした」
男性は眉尻を下げ、会釈をして去って行く。優香はのろのろと立ち上がる。まわりを見れば、同僚の姿がないではないか。
――新年早々スマホは壊れるし、同僚ともはぐれてしまうし。
(でも、かっこよかったなぁ……)
電話を踏んづけられたとはいえ、こんなことでもなければあんなにも見目のよい男性と話をする機会なんてないだろう。
優香は手もとの電話を見る。ぐちゃぐちゃになった画面に映った自分の顔は、それほど悲しそうではなかった。
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社会人九年目、いよいよがけっぷちである。
仕事に生きると決めた同期入社の友人はむしろ潔い。仕事は好きだ。思い入れだってある。しかし、できることなら結婚もしたい。
(今年こそ結婚できますように!)
優香は神前で手を合わせ、念じるように祈願した。願う時間がずいぶんと長くなってしまったような気がするが、そこは気にしない。
意気揚々ときびすを返して、神社の階段を下りたときだった。時間を確認しようと、コートのポケットを漁ると、寒さで手がかじかんでいたせいかスマートフォンを取りこぼして地面に落としてしまった。
「あっ……」
あわててしゃがみ込み、スマートフォンを拾おうとするものの、境内は人でごった返している。なかなか電話を手に取ることができない。
(あと、もう少し……)
スマートフォンに触れたのと、バキッという音が響いたのはほとんど同時だった。
「あ゛っ……!!」
だれかの足に踏まれたスマートフォンは画面が割れ、見るも無残な姿になってしまった。
「申し訳ございません」
愕然とする優香に、目線を合わせてしゃがみ込んだのはスマートフォンを踏んづけた男性だと思われる。優香は力なく「いえ……」と言いながら彼のほうを見る。思いのほかすぐ近くに男性の顔があって、優香は息が止まりそうになった。
つやのある黒髪、大きな目。目鼻立ちは一見しただけで整っているのがわかる。
(こんなイケメンに踏まれたのなら私のスマホも本望だわ……)
――って、いやいや。
男性の見目があまりにも麗しく、つい惚けてしまっていた。
「弁償します」
無残な姿のスマートフォンを手に取り、男性はその傷み具合を確認したあとでポケットから長財布を取り出した。
「いえ、うっかり落とした私がいけないので……。電話会社の保障にも入ってますから、平気です」
優香は彼の手から壊れたスマートフォンを受け取り、苦笑いする。
「そうですか……? 本当に申し訳ございませんでした」
男性は眉尻を下げ、会釈をして去って行く。優香はのろのろと立ち上がる。まわりを見れば、同僚の姿がないではないか。
――新年早々スマホは壊れるし、同僚ともはぐれてしまうし。
(でも、かっこよかったなぁ……)
電話を踏んづけられたとはいえ、こんなことでもなければあんなにも見目のよい男性と話をする機会なんてないだろう。
優香は手もとの電話を見る。ぐちゃぐちゃになった画面に映った自分の顔は、それほど悲しそうではなかった。