春にしては肌寒い休日、理沙はいつものように部長の家で昼食を作っていた。
(部長……今日はなんだかようすが変)
朝からずっと同じ部屋にいるのだが、あまり目を合わせてくれない。朝ご飯なんて、珍しくポロポロとこぼしながら食べていて、それを指摘するとバツが悪そうに咳払いしてなにも反論せずに黙り込んでいた。
「お昼ご飯、できましたよ」
食卓の椅子に座って、だいぶん大きくなった猫を撫でていた部長は目を伏せたまま「ああ」と短く答えた。
(やっぱり、変……まさか、まさかとは思うけど……浮気?)
最近はやたら帰りが遅い。それほど忙しい時期でもないというのに残業ばかりしているのか、はたまた会社を出たあとにどこかへ行っているのか。とにかく夜遅くにならないと帰ってこないのだ。
「頼智さんっ、私になにか隠しごとしてませんか」
料理を運び終えた理沙は向かいの椅子にどっかりと腰をおろし、部長を見つめた。
彼は少しだけ目線をこちらに寄越したあと、すぐにまたきららのほうを見た。
「……おまえ、会社を辞める気はないか」
唐突に聞かれ、理沙は口をポカンと開けたままなにも答えることができなかった。
(え……え……。私、なにかヘマしたっけ……!?)
浮気かも、などという考えはいっきに吹き飛ぶ。自分のミスのせいで部長が残業を強いられていたとしたら、とんでもないことだ。
「あ、あの……私、部長になにかご迷惑を……?」
自宅では名前を呼ぶようにしていたのに、つい会社にいる時のような口の利きかたになってしまった。
「あー……いや、だから……その」
部長は言いよどんで、目を泳がせている。そんな態度にますます不安をかき立てられる。
「私っ、頑張りますから……クビだけは勘弁してくださいっ」
「……そんなに働きたいのか?」
「そりゃあ……働かなきゃ生活できないですし」
「働く場所はほかにもあるだろ」
「せっかく安定した企業に就職したのに、転職する勇気なんてありません」
「だから……ここで、働けばいい」
部長はおもむろに猫を抱き上げ、理沙にきららを手渡してきた。なぜいま、きららを寄越してくるのだ。
不思議に思いながらも「にゃぁん」と可愛らしく鳴く猫を抱く。
しばらくお互いになにも話さなかった。昼食はどんどん冷めていくけれど、部長が手をつけないから理沙も食べなかった。
手持ちぶさたに猫を撫でていると、首輪が新しくなっていることに気がついた。けれどきららにはサイズが大きすぎる。
ゆるい首輪の中央には、ピンクゴールドのリングが輝いていた。
「その首輪はおまえのだ、理沙……。これからは俺のためだけに、働け」
理沙は猫と首輪を見つめたまま絶句していた。
「おい……返事は」
痺れを切らしたように部長は言い、おもむろに箸を手に取り食事を始めた。
「あ……えっと……それって、どういうことですか」
「……それは、わざと聞いてるのか?」
「ちゃっ、ちゃんと言ってくれなきゃわかりませんっ」
嘘だ。本当はわかっている。けれど理沙は嬉しくて、しかし恥ずかしくもあってそんなことを口走ってしまった。
「首輪、いますぐつけろ。おまえは俺が一生、大事に飼ってやる」
素直じゃないのはふたりとも同じ。
理沙はきららの頭に頬を寄せて顔をほころばせた。
***
「最上階……しかも、角部屋……」
不器用な婚約から一週間後、新居だといって部長から案内されたマンションの一室に理沙はいた。
家具もある程度はそろっていて、すぐにでも住み始めることができそうな状態だ。
連日、部長の帰りが遅かったのは新居の準備をしていたから、らしい。
「ここなら堂々ときららを飼えるぞ。あと、おまえも」
「なっ……私は『ついで』ですか?」
ベランダから外を眺めていた理沙はとなりにいる部長を見上げた。部長は景色を見つめたまま言う。
「いつもいつも甘い言葉ばかりささやくと思うなよ」
「甘い言葉なんて、めったに言ってくれないくせに」
「そんなに聞きたいか? じゃあ服を脱げ」
「なんで、そうなるの……っちょ、頼智さん……!?」
部長は理沙のカットソーをグイッと思い切りうえに引っ張って、下着を丸見えにさせた。
「っ、ここ、ベランダ……っ」
「だからなんだ」
「……ここで、するの?」
「ああ。悪いか?」
「悪いです……っふ、頼智さんの、変態……っんく」
「このくらいで変態呼ばわりとは。だったら世のなかの男はみんな変態ということになるな」
「あ……ぁ、やぁ……。ん……っ、え?」
上半身が完全に裸になったところで、部長は理沙の首に真っ赤な首輪をはめながらつぶやく。
「理沙……愛してる。ずっと、俺に飼われてろ」
「んっ、や……っ」
乳房を揉まれながら唇を塞がれ、女陰はすぐに受け入れの準備を始めてしまう。
(甘い言葉はささやかないんじゃなかったの?)
そう言いたかったのに、スカートをストンと落とされてショーツのうえから秘めた裂け目を指でたどられ、喘ぎ声しか発することができなかった。
「はふ……ん、んっ」
試すように指は下着ごしに秘裂を往復している。
「どうした? つらそうだな」
彼の言うとおり、立っているのがつらくなって理沙はベランダのフェンスに両手をついた。
部長は背中から抱き込むように片手で乳房をやんわりとさわり、裂け目をゆるやかに撫で上げた。
「ん……っ、頼智さん……っぁ、う」
焦らさずにさわって欲しい。しかし、今日はなんだか気恥ずかしくてなにも言えなかった。
部長はそんな理沙の心理などお見通しなのか、
「せっかく首輪をつけてるんだから、猫のように鳴いてみろ。そうしたらさわってやる」
「んくぅ……っ!」
首根っこを輪ごとつかんで引っ張りながら、部長は理沙のうなじを舐め上げた。かすかに首まわりがきつくなって、それがまた四肢を甘く浮き立たせる。
「……にゃあ」
「気持ちがこもってないな……きららのほうがもっといい声で鳴くぞ」
あごを指でたどられ、もう片方の指は乳輪をかたどっていた。
いつの間にか「にゃー、にゃぁ」と本物の猫が足にすり寄ってきている。毛並みがくすぐったい。
「にゃ……ぁ、にゃぁっ」
「……いい子だ」
突如として部長はショーツのなかに手を突っ込み、陰毛をかきわけて蜜壺に指をねじ込ませた。
「あっ、ああ……んっ、んく!」
乳頭は素早く こねられていて、これだけで絶頂してしまいそうだった。
「鳴き方が違うぞ、理沙。イきたいのなら、ちゃんと鳴け」
「っく、ふ……ぅぅ、にゃ、にゃ……っ」
一所懸命に猫の真似をしていると、彼の指はグンッとさらに奥を突いて、同時に陰核をなぶり始めた。
「あああっ、っふ、んぁっ、ンンッ!」
部長がなにかをささやいた。しかしまったく耳に入ってこない。間もなくして下半身はビクビクと脈動した。
座り込みたくなってフラフラしながら足を折り曲げる。
「これ、敷いとけ」
部長はジャケットを脱いでバサリと床に広げた。
「やだ、大丈夫ですよ……。この上着、まだ新しいし汚れたりしたらいけないし」
「べつにかまわない。むしろおまえの蜜で汚してくれ」
「そんな……っ、あ」
理沙のショーツを完全に取り去りながら、部長は臀部を艶かしく撫で上げた。いよいよ裸になってしまい、いまさらながら背徳感を覚え始める。
「頼智さん、やっぱり部屋に行きましょう? 裸でベランダにいるなんて、落ち着かない」
「裸じゃないだろ。首輪を付けてる」
「は、裸も同然じゃないですか……っぁ、やだ……んっ、ふ」
「猫だったら、首輪をつけているだけで着飾って見えるぞ」
「私は……猫じゃ、ない……っぁ、あ」
「……そうだな、おまえはただのメスだ。俺も、理沙を求めてやまないただのオス」
「ああっ、あ……っく、ふ……んん、頼智さんの……っ、おっきい……あ、ん!」
よつん這いになった理沙はうしろから打ち込まれてきた熱く硬い大きな楔に身悶えし、ベランダの金網に手をついた。
網目からは向かいのオフィスビルが見える。誰かにこの姿を見られていないだろうかと不安になりつつも、それが興奮を かさ増ししているのは明らかだった。
「っふ、あ、ああ……んっ、くぅっ!」
理沙は両手でフェンスの格子を握り締めてうしろからの抽送に耐えていた。
揺れる乳房を制するように部長は片手でそれを覆う。もう片方の手は、さわってもらいたくて疼いている下半身の花芽を潰すようにとらえていた。
「膝、痛くないか?」
「うっ、ん……んっ!」
激しく腰を振りながらおだやかにささやかれて、肯定したつもりはないのに部長は理沙の喘ぎを返事だととらえたらしく、急に身体を抱き起こされた。
外を眺めた状態のまま彼のひざのうえに座り込む。
「ん……っ」
律動がゆるやかになる。あごをつかまれた。彼のほうを振り向く。すぐに唇が重なって、啄ばむようにちゅ、ちゅっとバードキスをされる。
「っふ、う……頼智さん……っ」
ベランダに吹き込んでくる春風はおだやかで暖かい。まるで心を映しているようだった。
しだいに深くなる口付けは暖かな風でとろけてしまいそうなほど熱っぽくて、ゆるやかだった下半身の動きが激しさを取り戻していく。
「これからは、気がねなくおまえのなかに子種をまけるんだな」
「あっ、ああ……んっ、ふ、ぁぁっ!」
いつも、気なんか遣ってないくせに。
そう思ったけれど、揚げ足を取っている余裕はなかった。
気付かぬうちに向かい合う格好になっていた理沙は彼にしがみついて自らも腰を上下させた。
「ん、んんっ……っぁ、頼智さ……んっ、愛してる……っ!」
彼は応えるようにふたたび唇を寄せてきた。体内で波打つ雄棒は身体を、心を、満たしていく。
FIN.
これにて番外編も完結です。お読みいただき本当にありがとうございました。
熊野まゆ
(部長……今日はなんだかようすが変)
朝からずっと同じ部屋にいるのだが、あまり目を合わせてくれない。朝ご飯なんて、珍しくポロポロとこぼしながら食べていて、それを指摘するとバツが悪そうに咳払いしてなにも反論せずに黙り込んでいた。
「お昼ご飯、できましたよ」
食卓の椅子に座って、だいぶん大きくなった猫を撫でていた部長は目を伏せたまま「ああ」と短く答えた。
(やっぱり、変……まさか、まさかとは思うけど……浮気?)
最近はやたら帰りが遅い。それほど忙しい時期でもないというのに残業ばかりしているのか、はたまた会社を出たあとにどこかへ行っているのか。とにかく夜遅くにならないと帰ってこないのだ。
「頼智さんっ、私になにか隠しごとしてませんか」
料理を運び終えた理沙は向かいの椅子にどっかりと腰をおろし、部長を見つめた。
彼は少しだけ目線をこちらに寄越したあと、すぐにまたきららのほうを見た。
「……おまえ、会社を辞める気はないか」
唐突に聞かれ、理沙は口をポカンと開けたままなにも答えることができなかった。
(え……え……。私、なにかヘマしたっけ……!?)
浮気かも、などという考えはいっきに吹き飛ぶ。自分のミスのせいで部長が残業を強いられていたとしたら、とんでもないことだ。
「あ、あの……私、部長になにかご迷惑を……?」
自宅では名前を呼ぶようにしていたのに、つい会社にいる時のような口の利きかたになってしまった。
「あー……いや、だから……その」
部長は言いよどんで、目を泳がせている。そんな態度にますます不安をかき立てられる。
「私っ、頑張りますから……クビだけは勘弁してくださいっ」
「……そんなに働きたいのか?」
「そりゃあ……働かなきゃ生活できないですし」
「働く場所はほかにもあるだろ」
「せっかく安定した企業に就職したのに、転職する勇気なんてありません」
「だから……ここで、働けばいい」
部長はおもむろに猫を抱き上げ、理沙にきららを手渡してきた。なぜいま、きららを寄越してくるのだ。
不思議に思いながらも「にゃぁん」と可愛らしく鳴く猫を抱く。
しばらくお互いになにも話さなかった。昼食はどんどん冷めていくけれど、部長が手をつけないから理沙も食べなかった。
手持ちぶさたに猫を撫でていると、首輪が新しくなっていることに気がついた。けれどきららにはサイズが大きすぎる。
ゆるい首輪の中央には、ピンクゴールドのリングが輝いていた。
「その首輪はおまえのだ、理沙……。これからは俺のためだけに、働け」
理沙は猫と首輪を見つめたまま絶句していた。
「おい……返事は」
痺れを切らしたように部長は言い、おもむろに箸を手に取り食事を始めた。
「あ……えっと……それって、どういうことですか」
「……それは、わざと聞いてるのか?」
「ちゃっ、ちゃんと言ってくれなきゃわかりませんっ」
嘘だ。本当はわかっている。けれど理沙は嬉しくて、しかし恥ずかしくもあってそんなことを口走ってしまった。
「首輪、いますぐつけろ。おまえは俺が一生、大事に飼ってやる」
素直じゃないのはふたりとも同じ。
理沙はきららの頭に頬を寄せて顔をほころばせた。
***
「最上階……しかも、角部屋……」
不器用な婚約から一週間後、新居だといって部長から案内されたマンションの一室に理沙はいた。
家具もある程度はそろっていて、すぐにでも住み始めることができそうな状態だ。
連日、部長の帰りが遅かったのは新居の準備をしていたから、らしい。
「ここなら堂々ときららを飼えるぞ。あと、おまえも」
「なっ……私は『ついで』ですか?」
ベランダから外を眺めていた理沙はとなりにいる部長を見上げた。部長は景色を見つめたまま言う。
「いつもいつも甘い言葉ばかりささやくと思うなよ」
「甘い言葉なんて、めったに言ってくれないくせに」
「そんなに聞きたいか? じゃあ服を脱げ」
「なんで、そうなるの……っちょ、頼智さん……!?」
部長は理沙のカットソーをグイッと思い切りうえに引っ張って、下着を丸見えにさせた。
「っ、ここ、ベランダ……っ」
「だからなんだ」
「……ここで、するの?」
「ああ。悪いか?」
「悪いです……っふ、頼智さんの、変態……っんく」
「このくらいで変態呼ばわりとは。だったら世のなかの男はみんな変態ということになるな」
「あ……ぁ、やぁ……。ん……っ、え?」
上半身が完全に裸になったところで、部長は理沙の首に真っ赤な首輪をはめながらつぶやく。
「理沙……愛してる。ずっと、俺に飼われてろ」
「んっ、や……っ」
乳房を揉まれながら唇を塞がれ、女陰はすぐに受け入れの準備を始めてしまう。
(甘い言葉はささやかないんじゃなかったの?)
そう言いたかったのに、スカートをストンと落とされてショーツのうえから秘めた裂け目を指でたどられ、喘ぎ声しか発することができなかった。
「はふ……ん、んっ」
試すように指は下着ごしに秘裂を往復している。
「どうした? つらそうだな」
彼の言うとおり、立っているのがつらくなって理沙はベランダのフェンスに両手をついた。
部長は背中から抱き込むように片手で乳房をやんわりとさわり、裂け目をゆるやかに撫で上げた。
「ん……っ、頼智さん……っぁ、う」
焦らさずにさわって欲しい。しかし、今日はなんだか気恥ずかしくてなにも言えなかった。
部長はそんな理沙の心理などお見通しなのか、
「せっかく首輪をつけてるんだから、猫のように鳴いてみろ。そうしたらさわってやる」
「んくぅ……っ!」
首根っこを輪ごとつかんで引っ張りながら、部長は理沙のうなじを舐め上げた。かすかに首まわりがきつくなって、それがまた四肢を甘く浮き立たせる。
「……にゃあ」
「気持ちがこもってないな……きららのほうがもっといい声で鳴くぞ」
あごを指でたどられ、もう片方の指は乳輪をかたどっていた。
いつの間にか「にゃー、にゃぁ」と本物の猫が足にすり寄ってきている。毛並みがくすぐったい。
「にゃ……ぁ、にゃぁっ」
「……いい子だ」
突如として部長はショーツのなかに手を突っ込み、陰毛をかきわけて蜜壺に指をねじ込ませた。
「あっ、ああ……んっ、んく!」
乳頭は素早く こねられていて、これだけで絶頂してしまいそうだった。
「鳴き方が違うぞ、理沙。イきたいのなら、ちゃんと鳴け」
「っく、ふ……ぅぅ、にゃ、にゃ……っ」
一所懸命に猫の真似をしていると、彼の指はグンッとさらに奥を突いて、同時に陰核をなぶり始めた。
「あああっ、っふ、んぁっ、ンンッ!」
部長がなにかをささやいた。しかしまったく耳に入ってこない。間もなくして下半身はビクビクと脈動した。
座り込みたくなってフラフラしながら足を折り曲げる。
「これ、敷いとけ」
部長はジャケットを脱いでバサリと床に広げた。
「やだ、大丈夫ですよ……。この上着、まだ新しいし汚れたりしたらいけないし」
「べつにかまわない。むしろおまえの蜜で汚してくれ」
「そんな……っ、あ」
理沙のショーツを完全に取り去りながら、部長は臀部を艶かしく撫で上げた。いよいよ裸になってしまい、いまさらながら背徳感を覚え始める。
「頼智さん、やっぱり部屋に行きましょう? 裸でベランダにいるなんて、落ち着かない」
「裸じゃないだろ。首輪を付けてる」
「は、裸も同然じゃないですか……っぁ、やだ……んっ、ふ」
「猫だったら、首輪をつけているだけで着飾って見えるぞ」
「私は……猫じゃ、ない……っぁ、あ」
「……そうだな、おまえはただのメスだ。俺も、理沙を求めてやまないただのオス」
「ああっ、あ……っく、ふ……んん、頼智さんの……っ、おっきい……あ、ん!」
よつん這いになった理沙はうしろから打ち込まれてきた熱く硬い大きな楔に身悶えし、ベランダの金網に手をついた。
網目からは向かいのオフィスビルが見える。誰かにこの姿を見られていないだろうかと不安になりつつも、それが興奮を かさ増ししているのは明らかだった。
「っふ、あ、ああ……んっ、くぅっ!」
理沙は両手でフェンスの格子を握り締めてうしろからの抽送に耐えていた。
揺れる乳房を制するように部長は片手でそれを覆う。もう片方の手は、さわってもらいたくて疼いている下半身の花芽を潰すようにとらえていた。
「膝、痛くないか?」
「うっ、ん……んっ!」
激しく腰を振りながらおだやかにささやかれて、肯定したつもりはないのに部長は理沙の喘ぎを返事だととらえたらしく、急に身体を抱き起こされた。
外を眺めた状態のまま彼のひざのうえに座り込む。
「ん……っ」
律動がゆるやかになる。あごをつかまれた。彼のほうを振り向く。すぐに唇が重なって、啄ばむようにちゅ、ちゅっとバードキスをされる。
「っふ、う……頼智さん……っ」
ベランダに吹き込んでくる春風はおだやかで暖かい。まるで心を映しているようだった。
しだいに深くなる口付けは暖かな風でとろけてしまいそうなほど熱っぽくて、ゆるやかだった下半身の動きが激しさを取り戻していく。
「これからは、気がねなくおまえのなかに子種をまけるんだな」
「あっ、ああ……んっ、ふ、ぁぁっ!」
いつも、気なんか遣ってないくせに。
そう思ったけれど、揚げ足を取っている余裕はなかった。
気付かぬうちに向かい合う格好になっていた理沙は彼にしがみついて自らも腰を上下させた。
「ん、んんっ……っぁ、頼智さ……んっ、愛してる……っ!」
彼は応えるようにふたたび唇を寄せてきた。体内で波打つ雄棒は身体を、心を、満たしていく。
FIN.
これにて番外編も完結です。お読みいただき本当にありがとうございました。
熊野まゆ