言いなりオフィス・ラヴ 《 02

 終業時間を30分ほど過ぎたところで、仁美は会社を出た。今日はノー残業デーだから、引け目なく帰れる。そして行く先はひとつ、熊野プラザホテルだ。
 課長が予約してくれている一室の鍵をフロントで受け取り、シャワーを浴びてバスタオル一枚で待つ。待つのは好きじゃないけれど、これがいつものパターン。

「仁美、お待たせ」

 小一時間が経つと、息を切らして課長が部屋にやって来た。仁美は顔をほころばせる。

「大輔さん、いい歳なんだからそんなに走っちゃダメですよ」

「爺さん扱いするなよ。まだ40になったばっかりだ」

「ハイハイ」と言いながら仁美は大輔に抱きついた。タバコの匂いのなかにわずかに混じる男性ものの香水が、大人の男を演出している気がした。

「シャワー、浴びて来るから……。いい子で待ってろよ」

 仁美はうなづいて、彼のスーツを預かりクローゼットにかけた。彼がシャワーを浴びているあいだに、いつも妄想する。もし彼と結婚したら、と。けれどそれはおそらく永遠に叶わない夢だ。 ベッドの端に腰かけていると、うしろから抱き締められて温かい肌が触れた。大輔の短い髪の毛が首筋に当たってくすぐったい。結い上げていた髪を解かれ、背中に流れた髪の毛の一束を掬われて口づけられた。

「ん……っ、ぁ……」

 背中や肩を撫でる手は艶かしく、彼に触れられた箇所は全てが性感帯になってしまうんじゃないかと思うくらい快感をもたらす。

「あ、あ……。んっ、ふぅ……っ」

 バスタオルをゆっくりとベッドに落とされ、乳房への愛撫がはじまる。探るような手つきは焦れったくて、

「あ、ん……。大輔さん、もっと……っ。ふぁ、あ……!」

「ねだるのがうまくなったな、仁美」

 つままれた上半身のつぼみはコリコリとひねられて硬さを増している。それに連動して蜜壺は愛液を外に垂れ流しはじめた。

「はふ……っ。ん、ああ……ぅ。ん、ん……」

 ベッドに仰向けになり、隅々まで肌をむさぼられる。表皮をたどっていく舌が乳房の先端に到達するのを心待ちにしていると、そのあいだに媚壁へと細長い指を突き刺された。

「あああっ、あ……っ。ん、ん、くふうぅぅ」

 陰部に指が入ると愛撫はいつも急に激しくなるから、高らかに喘がずにはいられない。仁美は身悶えしながら、乳頭を吸い上げる大輔の頭に手を添えた。

「んんっ、ん……。大輔さんっ、ダメ……っ。あ、まだ、イきたくない……。ふぁ、大輔さんので、イきたいの……。早く、ちょうだい……、あぁ!」

「仁美は相変わらず待てない子だね。もっと濡らしてからにしようと思ってたのに」

 両脚を持ち上げられて、仁美は秘部を恥じらいなくさらけ出して彼のものを待つ。熱い切っ先が蜜口に触れ、グニュリグニュリと肉襞を押し広げていく。

「あんんっ、ん……っ。ぁ、あ!」

 パシャリ、とカメラのシャッター音がした。大輔はいつの間にか仁美の携帯電話を手にしていて、彼と繋がっている部分を焦点にして仁美のあられもない姿を何枚も撮っている。

「んふ、ぅぅ……っ。あ、あんっ!」

 律動しながら上半身を起こされ、仁美は大輔の背にしがみついてせり上がって来る快感を愉しんだ。シャッター音は相変わらずしていて、ふと携帯電話のほうを見ると、画面には仁美と大輔が重なり合って繋がっているさまがインナーカメラを通して映し出されている。
「あ、ああ……っ。たまには……、大輔さんのでも…っ。ふ……撮って……っ、んく」

 彼は額に汗をかいたまま困り顔をする。万が一、彼の奥さんがこんな写真を見たら――。

「冗談、だよ。もっと……っ! んん、撮って……。大輔さんと繋がってるところ、たくさん……っ。ふ、あぅぅ!」

 ベッドが軋む音なのか、それともカメラのシャッター音なのかわからなくなるくらいにいっそう激しく突き上げられ、仁美は身体を仰け反り昇天した。


「……大輔さんは、そろそろ帰る?」

「ああ……」

 彼は必ずスーツを着てからタバコを吸う。そうやって仁美の匂いを消しているのだろう。大輔には帰るべき場所があって待つひとがいるのだから、当然だ。

(私は……いいの、二番目でも。彼が私を抱いてくれるだけで、いい……)

 彼のいちばんになりたいと願わないことが、この背徳感を少しでも払拭するための、せめてもの救いになっている。

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