「お願い、フィース。私……このままじゃ、気がへんになってしまいそう。……ううん。もう、へんになってる」
濡れた瞳は萌黄色だった。
おかしい。彼女の瞳は国王陛下ゆずりの碧眼で、青いはずだ。
「アリシア? きみ……」
フィース・アッカーソンは次の言葉に詰まる。
夜更けの――俗に言う、いかがわしい行為をするための――宿屋で、麗しく可憐な姫とふたりきりなのだ。それも、幼少期から淡い恋心を抱いてきた、5つ年下の女の子と。
アリシアの、無防備で艶っぽいバスローブ姿を前に、ただでさえ昂ぶる下半身をもてあましていたというのに、ベッドの上で面と向かって迫られてはたまらない。
彼女の髪の毛はまだ濡れていた。それは朝露を弾く桃のようにみずみずしく、美しい。揺れる瞳は、どうしてかふだんと違う色――黄緑に見える。
(俺の目がおかしいのか、それともこれ自体が夢なのか)
フィースは自身の薄いバスローブの前をかき合わせた。そこへ、アリシアの細い指が触れる。
「あ、アリシア……ッ?」
いとけなさの残る顔は女性と形容するにはまだ早く、しかし少女というのにも少し遠い。コルセットがなくとも形がわかるほどふくよかにふくらんだ胸もとは、とても魅惑的だ。
「わ、たし……っ、へんなの。あなたの……その、裸が見たくて、たまらないの」
「――!?」
彼女に触れられているところが、熱い。合わせになっているバスローブの隙間から、細い指が潜り込んで素肌に触れている。
哀しそうに下がった形のよい眉とつややかな唇が、フィースの庇護欲をかき立て、性欲をいっそう高めさせる。
「落ち着くんだ、アリシア」
自分自身にも同じことを言い聞かせるつもりで彼女をなだめる。
「きみはきっと、なにかへんなものを食べたか、あるいは寝ぼけているんだ」
フィースがそう言うと、アリシアはあからさまに顔を引きつらせた。
「あ、いや、ちがう。その……っ。そんな……哀しそうな顔をしないで」
彼女の瞳からはいまにも大粒の涙がこぼれ落ちそうだった。フィースはあわてて言いつくろったあとで、そっとアリシアの背を撫でた。
びくっ、と彼女の体が跳ねる。その反応になによりも驚いたのはフィースだ。
ふたりは幼いころから仲がよく、またアリシアはフィースによく懐いていた。手をつないでも、肩が触れても、ハグをしても、こんな反応はされたことがなかった。
男として意識されていないと思っていたのだが、いまは――。
アリシアが距離を詰める。シーツとバスローブがこすれる音が、どうしてかなまめかしいものに思える。
「そ、こ……じゃ、なくて……。べつのところに、さわってほしいの」
アリシアは下半身を押さえてこちらを見上げてくる。
「ここ、が……すごく、ムズムズするの……!」
フィースは息をのむ。
――ああ。俺は近いうちに、死ぬかもしれない。
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濡れた瞳は萌黄色だった。
おかしい。彼女の瞳は国王陛下ゆずりの碧眼で、青いはずだ。
「アリシア? きみ……」
フィース・アッカーソンは次の言葉に詰まる。
夜更けの――俗に言う、いかがわしい行為をするための――宿屋で、麗しく可憐な姫とふたりきりなのだ。それも、幼少期から淡い恋心を抱いてきた、5つ年下の女の子と。
アリシアの、無防備で艶っぽいバスローブ姿を前に、ただでさえ昂ぶる下半身をもてあましていたというのに、ベッドの上で面と向かって迫られてはたまらない。
彼女の髪の毛はまだ濡れていた。それは朝露を弾く桃のようにみずみずしく、美しい。揺れる瞳は、どうしてかふだんと違う色――黄緑に見える。
(俺の目がおかしいのか、それともこれ自体が夢なのか)
フィースは自身の薄いバスローブの前をかき合わせた。そこへ、アリシアの細い指が触れる。
「あ、アリシア……ッ?」
いとけなさの残る顔は女性と形容するにはまだ早く、しかし少女というのにも少し遠い。コルセットがなくとも形がわかるほどふくよかにふくらんだ胸もとは、とても魅惑的だ。
「わ、たし……っ、へんなの。あなたの……その、裸が見たくて、たまらないの」
「――!?」
彼女に触れられているところが、熱い。合わせになっているバスローブの隙間から、細い指が潜り込んで素肌に触れている。
哀しそうに下がった形のよい眉とつややかな唇が、フィースの庇護欲をかき立て、性欲をいっそう高めさせる。
「落ち着くんだ、アリシア」
自分自身にも同じことを言い聞かせるつもりで彼女をなだめる。
「きみはきっと、なにかへんなものを食べたか、あるいは寝ぼけているんだ」
フィースがそう言うと、アリシアはあからさまに顔を引きつらせた。
「あ、いや、ちがう。その……っ。そんな……哀しそうな顔をしないで」
彼女の瞳からはいまにも大粒の涙がこぼれ落ちそうだった。フィースはあわてて言いつくろったあとで、そっとアリシアの背を撫でた。
びくっ、と彼女の体が跳ねる。その反応になによりも驚いたのはフィースだ。
ふたりは幼いころから仲がよく、またアリシアはフィースによく懐いていた。手をつないでも、肩が触れても、ハグをしても、こんな反応はされたことがなかった。
男として意識されていないと思っていたのだが、いまは――。
アリシアが距離を詰める。シーツとバスローブがこすれる音が、どうしてかなまめかしいものに思える。
「そ、こ……じゃ、なくて……。べつのところに、さわってほしいの」
アリシアは下半身を押さえてこちらを見上げてくる。
「ここ、が……すごく、ムズムズするの……!」
フィースは息をのむ。
――ああ。俺は近いうちに、死ぬかもしれない。