「きみが俺と結婚してくれないのなら、俺はまた役立たずのたなぼた王子に戻ってしまう」
「そ、そんなこと! いえ、その……私などでよろしいのですか?」
「きみがいいんだ」
「で、でも……出会ってまだ間もないのに」
カトリオーナは目の前のことで手一杯だった。一日でも先のことを考えている余裕がない。この後のことすら不透明だ。
(私がアーウェルさまの寝室でこんなことをしていると周りに知れたら)
彼に迷惑をかけることになるのではないかと急に不安になってきた。いまさらだ。
カトリオーナは思案顔でうろたえる。そんな煮え切らない彼女をアーウェルがまくし立てる。
「確かにそうだが俺はほかの誰も知りえないきみの淫らな姿をすでに知っている」
アーウェルの両手が、その表情が艶っぽさを帯びる。
「っ……!!」
陰唇を指で押し広げたアーウェルは中で眠る豆粒のご機嫌うかがいをした。
「ぁ、ん……っ!」
「ココをこんなふうにこすり立てればきみは少女の殻を脱ぎ捨てて官能的な表情を見せる」
花芽をこする指の動きが加速する。
「そしてこれからも、きみのこんな姿は俺だけのものだよ、カトリオーナ」
「ぁ、ああぁっ!」
それは一瞬のことだった。痺れるような快感は瞬時に高まり、下半身が脈動した。
大きく上下するカトリオーナの胸もとをしげしげと眺めながらアーウェルは言う。
「俺がすぐにきみをいちばんよく知る人間になるさ。だから安心して俺の妃になって欲しい」
「わ、私も……アーウェル、さまの……いちばんになりたいです」
「それはすでに達成しているよ。俺はきみしか見えてない。国務をすべて放棄してしまいたくなるくらい」
ああ、これは夢なのではないだろうか。一目で虜になってしまった王子様が応えてくれている。あまりにも幸福で、そして幸運だ。
「……兄上も同じだったのかな」
祭りの喧騒がわずかに届く彼方を見つめてつぶやくアーウェル。カトリオーナはそれには答えなかった。自分に答えを求めているふうではなかったから、ほほえむだけにした。
「……でも、本当によろしいのですか。ご婚約者さまはいらっしゃらないのですか? あるいは、その……」
突然やってきた幸福がにわかに信じられないカトリオーナは不安ばかりが頭に浮かぶ。もしかしたら正妃ではなく二番目、あるいは三番目なのかもしれないと思った。それでも幸せなことには変わりないが、やはり欲が出る。自分だけが彼の妃にと望まれているのかどうか、確かめずにはいられなかった。
「出奔した兄のせいで忙しすぎてそんなものは後回しにしていた。だがいまはそれでよかったと思う」
「……でも」
「次に『でも』という言葉を使ったら手足を縛るよ」
カトリオーナは目を丸くする。口はエサを食む魚のようにパクパクと動くばかりで言葉を発しない。アーウェルがその唇を人差し指でそっと撫でる。
「一目惚れなんて自分でも信じられない。でも、好きなんだ。きみを知れば知るほど、どんどんその度合いが増していく」
いまだに驚いた顔をしているカトリオーナにアーウェルが覆いかぶさる。
「さあ、手足を縛るとしよう」
「――!?」
なぜそうなるのだ。いましがた話をしていたのはアーウェルだ。
「わ、私は何も言ってません、よ?」
「俺が言った。きみがそれを言ったら、とは言わなかったよ」
「ええっ?」
そんな理屈があるものか。それに、手足を縛られたらどうなるのだろう。彼は何をするつもりなのだろう。そんなことをされた経験はもちろんないのでまったく予想がつかない。
冗談を真に受けて青ざめていくカトリオーナをアーウェルが気遣う。
「そういえば寝不足だと言っていたっけ。少し眠る?」
「いっ、いいえ! 眠れそうにありません。目覚めたら手足を縛られているのでしょう?」
形のよい唇がどんどん弧を描いていく。ニィッと笑った顔は溌剌とした少年を思わせた。
「さあ、どうだろうね。眠っていいよ、カトリオーナ。俺は俺で好きにさせてもらうから」
「ひゃぅっ!?」
カトリオーナの体をゴロンと転がしながらアーウェルも横たわる。横向きで後ろから抱きしめられる恰好になった。
「おやすみ、カトリオーナ」
「っ、アーウェルさま……ッ」
アーウェルの両手が胸や脚の付け根あたりを這いまわる。
寝かせる気なんてないのでしょうと言ってしまいそうになり、しかし思いとどまる。彼とはまだそこまで気安い仲ではない。アーウェルのほうは、違うのかもしれないが。
「きみの髪……すごく滑らかだ。なにか特別な手入れでもしてるのか?」
「え……っと。リルお姉さまに教わった方法で手入れをしています。お姉さまはいつもそうして美容法を教えてくださるんです」
「へえ。きみは義姉さんと仲がいいんだね」
「はいっ。リルお姉さまは私が幼いときからよく遊んでくださいました。お姉さまが森に住まわれてからはあまりお会いできませんが……いまでも大好きです」
彼の手がピタリと動きを止めた。撫でまわされるのを心地よく思っていただけに、急にやめられてしまうと居心地が悪い。
「……アーウェルさま?」
「少し妬ける」
カトリオーナの呼びかけにかぶせるようにアーウェルは言った。
「教えて。きみは俺をどう思ってる?」
肌を撫でる動作が再開する。しかし今度は性急だった。カトリオーナの性感帯へとまっしぐらだ。
「ぁっ、やぅっ……!」
ふくらみのいただきをつままれ、脚のあいだの肉粒をなぶられる。
「あ……っ。ぉ、お慕い、して……っん、ふぁっ」
「慕う? そんな程度なのか、俺は」
落胆しきった声音だった。カトリオーナはあわてて弁解しようとしたが、彼の指が体のナカへ入り込んできたせいで喘ぎ声しか出せなくなった。
「あ、んぁぁっ!」
「確かにきみと知り合ったのはつい最近だけど、時間は関係ない。俺はきみを愛してるよ。片時も放したくない――」
情熱的な愛の言葉はできればこんな状況でないときに聞きたかったと思ってしまうのは贅沢だろうか。
カトリオーナは喘ぎながら思う。叔母であるリルの夫オーガスタスは奔放な男性だが、その弟であるアーウェルも決して負けてはいない、と。
FIN.
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熊野まゆ
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「そ、そんなこと! いえ、その……私などでよろしいのですか?」
「きみがいいんだ」
「で、でも……出会ってまだ間もないのに」
カトリオーナは目の前のことで手一杯だった。一日でも先のことを考えている余裕がない。この後のことすら不透明だ。
(私がアーウェルさまの寝室でこんなことをしていると周りに知れたら)
彼に迷惑をかけることになるのではないかと急に不安になってきた。いまさらだ。
カトリオーナは思案顔でうろたえる。そんな煮え切らない彼女をアーウェルがまくし立てる。
「確かにそうだが俺はほかの誰も知りえないきみの淫らな姿をすでに知っている」
アーウェルの両手が、その表情が艶っぽさを帯びる。
「っ……!!」
陰唇を指で押し広げたアーウェルは中で眠る豆粒のご機嫌うかがいをした。
「ぁ、ん……っ!」
「ココをこんなふうにこすり立てればきみは少女の殻を脱ぎ捨てて官能的な表情を見せる」
花芽をこする指の動きが加速する。
「そしてこれからも、きみのこんな姿は俺だけのものだよ、カトリオーナ」
「ぁ、ああぁっ!」
それは一瞬のことだった。痺れるような快感は瞬時に高まり、下半身が脈動した。
大きく上下するカトリオーナの胸もとをしげしげと眺めながらアーウェルは言う。
「俺がすぐにきみをいちばんよく知る人間になるさ。だから安心して俺の妃になって欲しい」
「わ、私も……アーウェル、さまの……いちばんになりたいです」
「それはすでに達成しているよ。俺はきみしか見えてない。国務をすべて放棄してしまいたくなるくらい」
ああ、これは夢なのではないだろうか。一目で虜になってしまった王子様が応えてくれている。あまりにも幸福で、そして幸運だ。
「……兄上も同じだったのかな」
祭りの喧騒がわずかに届く彼方を見つめてつぶやくアーウェル。カトリオーナはそれには答えなかった。自分に答えを求めているふうではなかったから、ほほえむだけにした。
「……でも、本当によろしいのですか。ご婚約者さまはいらっしゃらないのですか? あるいは、その……」
突然やってきた幸福がにわかに信じられないカトリオーナは不安ばかりが頭に浮かぶ。もしかしたら正妃ではなく二番目、あるいは三番目なのかもしれないと思った。それでも幸せなことには変わりないが、やはり欲が出る。自分だけが彼の妃にと望まれているのかどうか、確かめずにはいられなかった。
「出奔した兄のせいで忙しすぎてそんなものは後回しにしていた。だがいまはそれでよかったと思う」
「……でも」
「次に『でも』という言葉を使ったら手足を縛るよ」
カトリオーナは目を丸くする。口はエサを食む魚のようにパクパクと動くばかりで言葉を発しない。アーウェルがその唇を人差し指でそっと撫でる。
「一目惚れなんて自分でも信じられない。でも、好きなんだ。きみを知れば知るほど、どんどんその度合いが増していく」
いまだに驚いた顔をしているカトリオーナにアーウェルが覆いかぶさる。
「さあ、手足を縛るとしよう」
「――!?」
なぜそうなるのだ。いましがた話をしていたのはアーウェルだ。
「わ、私は何も言ってません、よ?」
「俺が言った。きみがそれを言ったら、とは言わなかったよ」
「ええっ?」
そんな理屈があるものか。それに、手足を縛られたらどうなるのだろう。彼は何をするつもりなのだろう。そんなことをされた経験はもちろんないのでまったく予想がつかない。
冗談を真に受けて青ざめていくカトリオーナをアーウェルが気遣う。
「そういえば寝不足だと言っていたっけ。少し眠る?」
「いっ、いいえ! 眠れそうにありません。目覚めたら手足を縛られているのでしょう?」
形のよい唇がどんどん弧を描いていく。ニィッと笑った顔は溌剌とした少年を思わせた。
「さあ、どうだろうね。眠っていいよ、カトリオーナ。俺は俺で好きにさせてもらうから」
「ひゃぅっ!?」
カトリオーナの体をゴロンと転がしながらアーウェルも横たわる。横向きで後ろから抱きしめられる恰好になった。
「おやすみ、カトリオーナ」
「っ、アーウェルさま……ッ」
アーウェルの両手が胸や脚の付け根あたりを這いまわる。
寝かせる気なんてないのでしょうと言ってしまいそうになり、しかし思いとどまる。彼とはまだそこまで気安い仲ではない。アーウェルのほうは、違うのかもしれないが。
「きみの髪……すごく滑らかだ。なにか特別な手入れでもしてるのか?」
「え……っと。リルお姉さまに教わった方法で手入れをしています。お姉さまはいつもそうして美容法を教えてくださるんです」
「へえ。きみは義姉さんと仲がいいんだね」
「はいっ。リルお姉さまは私が幼いときからよく遊んでくださいました。お姉さまが森に住まわれてからはあまりお会いできませんが……いまでも大好きです」
彼の手がピタリと動きを止めた。撫でまわされるのを心地よく思っていただけに、急にやめられてしまうと居心地が悪い。
「……アーウェルさま?」
「少し妬ける」
カトリオーナの呼びかけにかぶせるようにアーウェルは言った。
「教えて。きみは俺をどう思ってる?」
肌を撫でる動作が再開する。しかし今度は性急だった。カトリオーナの性感帯へとまっしぐらだ。
「ぁっ、やぅっ……!」
ふくらみのいただきをつままれ、脚のあいだの肉粒をなぶられる。
「あ……っ。ぉ、お慕い、して……っん、ふぁっ」
「慕う? そんな程度なのか、俺は」
落胆しきった声音だった。カトリオーナはあわてて弁解しようとしたが、彼の指が体のナカへ入り込んできたせいで喘ぎ声しか出せなくなった。
「あ、んぁぁっ!」
「確かにきみと知り合ったのはつい最近だけど、時間は関係ない。俺はきみを愛してるよ。片時も放したくない――」
情熱的な愛の言葉はできればこんな状況でないときに聞きたかったと思ってしまうのは贅沢だろうか。
カトリオーナは喘ぎながら思う。叔母であるリルの夫オーガスタスは奔放な男性だが、その弟であるアーウェルも決して負けてはいない、と。
FIN.
お読みいただきありがとうございました!
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