たなぼた王子の恋わずらい 《 14

 まぶたを開けているのがやっとという状況だった。
 いま目の前には滑らかで厚い胸板がある。森で初めて出会ったときのことを思い出した。まだそう昔のことではない。

「……これでようやく仕事が手につく」

 小さなつぶやきは穏やかで、安堵しきったようすだった。カトリオーナは「え?」と尋ね返す。

「きみに出会った日から俺はきみのことばかり考えていて、仕事がまったく手につかなかったんだ。それで、侍従に言われた」

 アーウェルの発言を待つ。何を言われたのだろう。

「俺は恋わずらいをしているらしい。だから早く想い人を手に入れろ、と」

 頬に添う手は熱い。極上とも思える微笑を浮かべて顔をのぞき込まれ、頬が急激に熱を帯びた。赤くなっているであろう顔を隠したいけれど、両頬を大きな手のひらに挟まれているのでかなわない。

「ああ……きみの顔を見ていたらまたしたくなってきた」
「そ、れは……先ほどのことを、また……?」
「うん。いいかな」
「……っ!!」

 カトリオーナの胸の先端を指でこね、さらには下半身の割れ目を人差し指でなぞりながらアーウェルは彼女の出方を待つ。

(こ、こんな……)

 こんなふうに体をまさぐられては「いやだ」と言えない。いまになって気がついたが、アーウェルは一貫して有無を言わさぬ聞き方をしてきている。

「カトリオーナ」

 彼は意思が強い。それに引き換え自分はどうだろう。アーウェルの気持ちに応えねばと思ういっぽうで、自分がどうしたいのかもよく考えた。

「私も……したい、です」

 カトリオーナの声はとても小さかった。震え声になってしまったのは羞恥心からだ。
 アーウェルが破顔する。嬉々とした表情のまま、カトリオーナの乳頭を指で丹念にこねながらアーウェルは言葉を継ぐ。

「挙式はいつにしようか」
「……えっ!?」

 きつねにつままれたような顔をしているカトリオーナをアーウェルは不満気に見下ろす。

「なぜそんなに驚くんだ。……まさかカトリオーナ。ほかに将来を誓った相手でも?」
「い、いいえ! そんなかたはおりません」

 しかしアーウェルとも誓った覚えはない。

(もしかして……契って欲しいっていうのがそうだったのかしら)

 だとしたら、あまりに安易にうなずいてしまった。

(王太子妃が私なんかでいいの?)

 隣国の伯爵令嬢などで果たしてよいのだろうか。

「……っ、あ」

 アーウェルは哀しそうに眉根を寄せた。カトリオーナの秘玉を指でつつく。

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