ロストヴァージンまでの十日間 《 最終話 噛み締める幸せ

ホテルのすぐそばには幹線道路がある。けれどそこを走っているであろう車の音は聞こえない。千夏の荒い息遣い、肌とシーツがこすれる音が頻繁に奏でられている。

「んっ……ぁ、だめ……そこ、あ……ひぁっ!」

「さわれと言ったのは千夏だ。ワガママを言うな」

ぬちっ、ぐちゅっという水っぽい音が加わる。ようやく乳首を舐めてもらえたと思ったら、そこからはいっきにせめ立てられて、膣口からなかへと沈み込んだ指は最奥を執拗に突いている。

「あっ、ああ……っん、っふ、は……や、アアッ!」

たまらなくなって達する。身体は心地よく痙攣し、とたんにまぶたが重くなった。

「おい、眠るなよ……具合が悪いのなら別だが」

口調はそんなに優しくない。けれど、いつだって気遣ってくれる。それが嬉しくて、千夏はほほえんだ。

「平気です。もっと……初見さんを感じたい」

たくましい上半身を見つめた。そそり立つ肉塊を初めて目にしたときは、ただ驚いた。でもいまは、なぜか愛しく感じて下半身がよけいに熱くなる。

「……あまり正直すぎるのも困りものだ」

潤み切ったあわいは甘く蠕動しながら雄棒をのみ込んだ。せり上がってきた快感は四肢の先を痺れさせる。

「ん、く……っは、ふぁぁ……っ」

抽送は激しかった。まだナカが慣れていないんじゃないかと思ったけれど、そんなことはなくてすぐに順応した。

「焦れているのは千夏だけじゃない。さっきみたいなことを言われると、すぐに出してしまいたくなる。もっと満喫したいのに……。ほら、言ってるそばからこんなに締め付けて」

「あっ、いや……っ、そんな、持ち上げちゃ……や、あ、あっ」

両脚を彼の肩にあずけると、さらに深くつながった。ベッドがきしむ音は激しさを増していく。

「っや、やんぅぅ……あ、いく……っう、いっちゃ……あ、あううッ!」

精が注ぎ込まれるのがわかった。それをしぼり取るように膣襞は何度も何度も収縮する。
倒れ込んできた彼を抱きとめ、頬を寄せた。するとすぐに唇を覆われた。

「ん……っふ、ぅ」

すべてを食べ尽くされている。そんな気がした。つながったままの下肢はふたたび膨張してゆるく律動を始めている。
絡められている舌、楔が打ち込まれた膣内、つままれた乳首すべてを溶かされてしまうんじゃないかと思った。
心地よくて、気持ちがよくて、このうえなく愛しい。

「初見さんっ……ん、私……幸せ、です……っはふ、ぁ……!」

千夏がそう言うと、初見は肉棒を引き抜いた。なにか尋ねる間もなく身体を横たえられ、そのまま寝返ってよつん這いになる。

「んんっ……あ、ふぁぁ……っ!」

陰茎はふたたび挿し込まれ、猛々しく膣壁をこすった。突かれるたびに、もうこれ以上の快感はないと思うのに、次のひと突きでたやすく塗り替えられてしまう。

「千夏……、千夏……っ!」

愛し合うって、こういうことなんだ。

涙があふれた。いったい何の感情で泣いているのかわからない。

身体を貫かれる快楽、彼と結婚できる喜び、愛されている実感。彼が愛おしすぎて、決して失いたくないと千夏は願った。

「んん……っぅ……」

いつまでもこうしていたい。いまはなにもかもが彼のもので満たされている。心も身体も幸福感でいっぱいだ。

「まだ……足りないな」

吐精したばかりなのに、初見のそれはすでに硬く大きくふくらんでいる。それを横目に見ながら、千夏は目もとに手をかざした。

「待ってください……。少し、休憩です。そんなに何回もできるほど私は慣れてな……あ、んんっ!」

「では慣らしてやる。千夏のほうから求めてやまなくなるまで」

嘘か本気かわからない調子でささやき、初見は肉塊を突き刺してきた。
慣れない行為で疲れているはずなのに、受け入れてしまう。

「ああっ……そこ、そんな……突かな……で……あ、ンンッ……!」

処女を失ってまだ一日も経っていない。
酸いも甘いも知らずに生きてきた千夏には大変なことだったが、何度も何度も身体を震わせ、心の奥底から幸せを噛み締めた。

FIN.

お読みいただきありがとうございました。

熊野 まゆ

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