ロストヴァージンまでの十日間 《 第二十六話 突然の前祝い(2)

テーブルのうえにところせましと並べられたディナーを見ているだけで食欲がそそられる。メインディッシュの香草焼きからはハーブのいい香りが漂っていた。

「いつの間に頼んだんですか、こんな豪華なディナー」

「宿泊手続きをしたときに、な。腹、減ってるだろ」

初見はシャンパンが入ったグラスをこちらへ向けてきた。千夏も、側にあったグラスを取る。「結婚を祝して」という彼の言葉の後に、グラス同士をコツンと控えめに合わせた。

熱を出して伏せっていたせいか、ろくなものを食べていなかった千夏はあっという間に料理を平らげた。ガツガツと食べ進めてしまい、みっともなかったかもしれない。

「いい食べっぷりだったな。すっかり元気になったようで、安心した」

「はい、ごちそうさまでした」

それから初見はホテルのスタッフを呼んだ。ディナーのワゴンが片付けられた部屋はもとの広さに戻る。
自然な流れで、互いに入浴を済ませてバスローブに着替えた。

(やだ……妙に緊張してきた)

ベッド端に腰かけたふたりのあいだには長い沈黙があった。寄り添うでもなく、見つめ合うでもない。ベッド下の淡いオレンジ色の光に照らされた初見の横顔に、千夏は少しだけ魅入って、目が合いそうになってすぐに正面を向いた。

「いま……なにを考えてる?」

ポツリと響く低音。探るような声。千夏は顔を上げて「えっと、その……」と言葉を詰まらせた。

「らしくないな。普段なら何でも単刀直入なのに。やはりまだ本調子じゃないのか」

「違います……その……。初見さんはなにを考えてるのかなって、思ってました」

「……俺を愛してるか?」

すぐ近くで彼の吐息を感じた。初見は前のめりになってベッドに両手をついている。下から顔をのぞき込まれ、途端に恥ずかしくなった。

「顔っ、近いです」

「そうか? で、どうなんだ」

「っ……ん」

今度は近いどころではない。頬が密着し、首筋に舌が這う。

「あ……愛して、ます……ひゃっ!」

ボフン、と大きな音を立てて布団に沈み込む。視界に映るのは真っ白な天井だけだ。

「俺も……愛してるよ、千夏」

「ん、う……どこが、いいんですか? こんな……口が悪い女」

「正直なだけだろ。いっそ清々しいから、俺は気に入っている」

「でも……っぁ、やだ……っふ、う」

血流が増しているのが自分でもわかった。彼が舌で触れていく軌跡は熱く、煮えたぎりそうだ。

「あの見合いを仕組んだのは俺だと言ったら、どうする」

「え……? っん、あ……それって、どういう……あ、ぁ……っ」

バスローブ越しに乳房を揉みしだかれる。生地のうえからでも容易にわかるほどふくらみの先端は尖っていて、初見はそれを指のあいだにはさんだ。

「ずいぶん前から千夏に興味を持っていたのに、食事に誘っても断わられてばかりで腹が立っていた。真面目で頑固な取引先の相手がどんなふうに喘ぐのか知りたかったのに」

「そんな理由で、お見合いを……? ん、っぅ」

「何事もきっかけはそんなものだろ。大事なのはいま、俺たちが愛し合ってるってことだ」

「んっ、ぁぁ……っ!」

乳房の硬い先端をバスローブごと食まれ、思わず背を浮かせて快感に悶えた。

(我慢できない……触って、もらいたい)

挑発的にこちらを見上げ、初見はバスローブのうえからしつこく乳首をひねった。生地がこすれるのは気持ちいいけれど、物足りない。湿っているのは、食まれているその箇所だけではない。

「初見さん……さわって下さい」

千夏は自らバスローブのすそをはだけさせて乳房と陰部をあらわにした。恥ずかしい。けれどこうしなければ、きっといつまでも焦らされる。

「大胆になったな、千夏」

乳輪を指でたどられると全身が粟立った。肌が上気して色づく。呼吸は乱れて、うまく息ができなくなりそうだった。

前 へ    目 次    次 へ

前 へ    目 次    次 へ