「もう眠ろうか」
ルイスは空のワイングラスを小さなローテーブルの上に置いてソファから立つ。
カタリーナも立ち上がると、そのまま体が宙に浮いた。
「ひゃっ!?」
体がひとりでに浮いてしまったわけではない。ルイスに横向きに抱きかかえられている。
「お、おにいさまっ?」
「カタリーナはあいかわらず軽い」
柔らかくほほえんで、ルイスはカタリーナを連れてベッドへ歩く。
彼は酔っているはずなのに、しかも人ひとりを抱えているというのに足取りはしっかりしていた。
ルイスはいつも机仕事ばかりというわけではない。休日はよく体を動かしている。乗馬や、弓を引くのが彼の趣味だ。
一度もふらつくことなくルイスはカタリーナをベッドに下ろした。カタリーナの頬は朱を帯びている。
もう、いい大人だというのに――幼子のようにベッドに運ばれてしまって、少し恥ずかしい。
小柄なカタリーナが横になっただけでも、ベッドの半分は埋まってしまった。
ルイスもすぐにベッドへ潜り込んでくる。
民宿の狭いシングルベッドで、ふたりはお互いが落っこちないようにひしと抱き合う。
「おやすみ、カタリーナ」
いつものように頬に口づけられた。しかし、それだけでは終わらない。ルイスはカタリーナの首すじにもちゅっと唇を寄せた。
「お、おにいさま……くすぐったい」
「……んん」
首すじを這う生温かいものの正体は彼の舌に違いない。
「あ、あのっ……?」
耳の舌を何度も舐め上げられ、どこかなまめかしい手つきで背中を撫でまわされる。なんだか妙な心地になってくる。
「愛してる……」
ぼそりと、くぐもった声が聞こえた。とたんにカタリーナの心臓が大きく跳ねる。
(え……えぇっ!?)
ルイスはカタリーナの肩に顔をうずめていた。どんな表情をしているのかわからない。
それきり、ルイスは動かなくなってしまった。
「……おにいさま?」
呼びかけても返事はなく、規則正しい静かな寝息が聞こえてくる。
「眠っちゃったの……?」
――愛してるって、どういう種類のもの? 家族として、それとも妹として?
確かめたいけれど、ルイスは眠ってしまった。
(ううん……確かめて、どうするの)
家族愛だと断言されたら――どうしよう?
いや、喜ばしいことだ。血のつながりがなくとも家族として愛してくれるのだから。
カタリーナはいまだに少し湿った自身の首すじを手のひらでさする。
もっと首すじを舐めまわされたかったなどと思ってしまう。
(私ったら……なんてふしだらなの)
残念がっている自分自身に愕然とし、同時にとてつもなく恥ずかしくなって、早く眠ってしまおうと目を閉じるものの、彼に頭を撫でてもらえなかったせいか、なかなか寝付くことができなかった。