真夜中の高速道路。
すれ違う対向車は数少ない。
それでも、正面から車のライトが見えるたびにドキリとする。
この痴態を見られはしないかと。
友梨(ゆり)はミニバンのセカンドシートに座っていた。きちんとベルトも締めている。
「ああ、いい眺めだねぇ」
隣の席からこちらを見ながらニヤニヤとほほえんでいるのは、幼なじみの聡(さとる)だ。端整な顔が意地悪くゆがんでいる。
「あの……。私、いつまでこのままなの?」
友梨はうつむいたままかぼそい声で尋ねた。聡は脚を組み直してひじかけに腕をつき、あごを支えて目を細める。
「いつまでって……ずっとだよ。だってすごくいい眺めなんだもん、友梨のその格好」
むき出しの乳房に幼なじみの視線が注がれる。
友梨はなにも身につけていない、裸の状態で車に揺られているのだ。
谷間には斜めにシートベルトが通っている。
走行の振動で乳房が揺れ、聡は食い入るようにそれをしげしげと見つめていた。
「どうせ興奮して濡らしてるんでしょ? 友梨は見られるのが大好きだもんねぇ。ああ、車のシートは思う存分、汚していいよ。どうせ龍我(りゅうが)のだし」
「聡、勝手なこと言うな。買ったばかりなんだぞ、この車」
運転席から低音が響いた。
友梨のもうひとりの幼なじみである龍我がとがめるように言ったのだった。
「弁護士様にはなんてことないだろ? こんな車の一台や二台」
「そういう問題じゃ無い。新車を汚されるのが嫌なんだ。友梨、濡らすなよ」
そんなことを言われても困る。下肢のつけ根から勝手にあふれ出るものをどうやって身の内にとどめろというのだ。
聡の指摘どおり友梨は蜜をあふれさせていた。陰唇から外へ淫蜜を垂れ流している自覚がある。
(私、どうかしてる……)
非常識きわまりないこの状況で興奮しているのが信じられない。有り得ない状況だからこその興奮かもしれないが、常軌を逸している。
(どうしてこんなことに)
友梨は三ヶ月前のことを思い起こしていた。
友梨と聡、それから龍我は新興住宅地に住む、家同士が近い幼なじみだ。いまはみな就職して離れたところで暮らしているが、年末に実家へ帰省したときにことは起こった。
当時つき合っていた男との性行為を彼らに見られたことが、すべてのはじまりだった。
ベランダで不用意にみだらなことをするものではない。
「ねえ、今度こそ消してよ。あの写真」
「あの写真って、どの写真のことかなぁ。ああ、いまのうちに今日のぶんも撮っておかないとね」
聡はスマートフォンを取り出してシャッターを切りはじめた。友梨はいっそううつむく。
これではいつまでたっても弱みを握られたままだ。
はじめは、ベランダでのふしだらな行為を写真に撮られ、友梨の職場に流すと言って揺すられた。
それから、幾度も背徳的な行為を強要され――。回を増すごとに不利な証拠が積み重なっていくのだ。
「やめて、撮らないで……! どうしてこんなことばかりするの?」
カメラのシャッターを切られることでよけいに愛蜜があふれてくる。それを認めたくなくて言葉だけでも否定した。
「だってあの大人しい友梨が、ベランダであんなことしてるんだもん。そりゃ、あんな乱れた姿を見せられたらいじめたくなるよ。俺たち、友梨のことが大好きなんだもん」
「……聡! 俺たちって、なんだよ。僕まで巻き込むな」
「っは、しらじらしいね、弁護士様のくせに」
友梨は肩をすくめた。ふたりの言い合いが始まってしまった。こういうときは口を挟まず大人しくしているのが得策だと友梨は知っている。
「そういうおまえはお役人様だろうが。いいのか? 友梨に訴えられでもしたら確実に負けるぞ、聡」
「なに言ってんの、共犯でしょ、龍我くんも」
「僕は聡におどされて、いやいやつき合ってるだけだ」
「よく言うねえ。友梨のハダカ見て勃起させてるやつのセリフじゃねーわ」
「ぼ、僕は……っ、そんなことは」
「いい加減におまえも友梨にさわってみれば? 柔らかくて気持ちいいぞー」
「ん……っ!」
横から伸びてきた手に乳房をつかまれ、それがあまりに力強くて友梨は顔を歪ませた。両手は背中で縛られているから聡の手を払うことはできない。
「いや、だ……っ! やめて……っ、あ、ぅ」
友梨は眉間にしわを寄せて身をくねらせた。身体をよじったところで聡の手から逃れられるわけではない。色づいた先端を指で弾かれ、嬌声が漏れ出てしまう。
「……聡、やめろ。友梨の声がうるさくて運転に集中できない」
龍我の声で友梨は顔を上げた。ルームミラー越しに銀縁眼鏡の彼と目が合う。ちょうどトンネルにさしかかったところだった。古いトンネルなのか、明るさが一定ではないから目が疲れる。友梨はまぶたを細めた。
「へーへー、やめますよ。まだ死にたくないし」
「んっ……」
友梨の乳首をピンッと弾いて聡は手を引っ込め、その指で自身の真っ直ぐな黒い前髪をいじりはじめた。役所へ就職する前は金髪だったから、いまの髪の色に不満があるのかもしれない。
「どこへ向かってるの?」
ルームミラーへ視線を向けて友梨は尋ねた。聡に聞いても教えてくれないだろうと思ったから龍我に話しかけた。
「友梨が知ってるところ。何年か前に三人で花見に行ったの、覚えてるか?」
龍我は前を向いたまま返した。
「うん、覚えてる。あのときは、昼間だったよね」
いまは夜で、しかも裸でドライブをしている。それを自覚して、同時にその事実にいたたまれなくなってしまう。
友梨は眉間にしわを寄せて窓の外を見やった。
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すれ違う対向車は数少ない。
それでも、正面から車のライトが見えるたびにドキリとする。
この痴態を見られはしないかと。
友梨(ゆり)はミニバンのセカンドシートに座っていた。きちんとベルトも締めている。
「ああ、いい眺めだねぇ」
隣の席からこちらを見ながらニヤニヤとほほえんでいるのは、幼なじみの聡(さとる)だ。端整な顔が意地悪くゆがんでいる。
「あの……。私、いつまでこのままなの?」
友梨はうつむいたままかぼそい声で尋ねた。聡は脚を組み直してひじかけに腕をつき、あごを支えて目を細める。
「いつまでって……ずっとだよ。だってすごくいい眺めなんだもん、友梨のその格好」
むき出しの乳房に幼なじみの視線が注がれる。
友梨はなにも身につけていない、裸の状態で車に揺られているのだ。
谷間には斜めにシートベルトが通っている。
走行の振動で乳房が揺れ、聡は食い入るようにそれをしげしげと見つめていた。
「どうせ興奮して濡らしてるんでしょ? 友梨は見られるのが大好きだもんねぇ。ああ、車のシートは思う存分、汚していいよ。どうせ龍我(りゅうが)のだし」
「聡、勝手なこと言うな。買ったばかりなんだぞ、この車」
運転席から低音が響いた。
友梨のもうひとりの幼なじみである龍我がとがめるように言ったのだった。
「弁護士様にはなんてことないだろ? こんな車の一台や二台」
「そういう問題じゃ無い。新車を汚されるのが嫌なんだ。友梨、濡らすなよ」
そんなことを言われても困る。下肢のつけ根から勝手にあふれ出るものをどうやって身の内にとどめろというのだ。
聡の指摘どおり友梨は蜜をあふれさせていた。陰唇から外へ淫蜜を垂れ流している自覚がある。
(私、どうかしてる……)
非常識きわまりないこの状況で興奮しているのが信じられない。有り得ない状況だからこその興奮かもしれないが、常軌を逸している。
(どうしてこんなことに)
友梨は三ヶ月前のことを思い起こしていた。
友梨と聡、それから龍我は新興住宅地に住む、家同士が近い幼なじみだ。いまはみな就職して離れたところで暮らしているが、年末に実家へ帰省したときにことは起こった。
当時つき合っていた男との性行為を彼らに見られたことが、すべてのはじまりだった。
ベランダで不用意にみだらなことをするものではない。
「ねえ、今度こそ消してよ。あの写真」
「あの写真って、どの写真のことかなぁ。ああ、いまのうちに今日のぶんも撮っておかないとね」
聡はスマートフォンを取り出してシャッターを切りはじめた。友梨はいっそううつむく。
これではいつまでたっても弱みを握られたままだ。
はじめは、ベランダでのふしだらな行為を写真に撮られ、友梨の職場に流すと言って揺すられた。
それから、幾度も背徳的な行為を強要され――。回を増すごとに不利な証拠が積み重なっていくのだ。
「やめて、撮らないで……! どうしてこんなことばかりするの?」
カメラのシャッターを切られることでよけいに愛蜜があふれてくる。それを認めたくなくて言葉だけでも否定した。
「だってあの大人しい友梨が、ベランダであんなことしてるんだもん。そりゃ、あんな乱れた姿を見せられたらいじめたくなるよ。俺たち、友梨のことが大好きなんだもん」
「……聡! 俺たちって、なんだよ。僕まで巻き込むな」
「っは、しらじらしいね、弁護士様のくせに」
友梨は肩をすくめた。ふたりの言い合いが始まってしまった。こういうときは口を挟まず大人しくしているのが得策だと友梨は知っている。
「そういうおまえはお役人様だろうが。いいのか? 友梨に訴えられでもしたら確実に負けるぞ、聡」
「なに言ってんの、共犯でしょ、龍我くんも」
「僕は聡におどされて、いやいやつき合ってるだけだ」
「よく言うねえ。友梨のハダカ見て勃起させてるやつのセリフじゃねーわ」
「ぼ、僕は……っ、そんなことは」
「いい加減におまえも友梨にさわってみれば? 柔らかくて気持ちいいぞー」
「ん……っ!」
横から伸びてきた手に乳房をつかまれ、それがあまりに力強くて友梨は顔を歪ませた。両手は背中で縛られているから聡の手を払うことはできない。
「いや、だ……っ! やめて……っ、あ、ぅ」
友梨は眉間にしわを寄せて身をくねらせた。身体をよじったところで聡の手から逃れられるわけではない。色づいた先端を指で弾かれ、嬌声が漏れ出てしまう。
「……聡、やめろ。友梨の声がうるさくて運転に集中できない」
龍我の声で友梨は顔を上げた。ルームミラー越しに銀縁眼鏡の彼と目が合う。ちょうどトンネルにさしかかったところだった。古いトンネルなのか、明るさが一定ではないから目が疲れる。友梨はまぶたを細めた。
「へーへー、やめますよ。まだ死にたくないし」
「んっ……」
友梨の乳首をピンッと弾いて聡は手を引っ込め、その指で自身の真っ直ぐな黒い前髪をいじりはじめた。役所へ就職する前は金髪だったから、いまの髪の色に不満があるのかもしれない。
「どこへ向かってるの?」
ルームミラーへ視線を向けて友梨は尋ねた。聡に聞いても教えてくれないだろうと思ったから龍我に話しかけた。
「友梨が知ってるところ。何年か前に三人で花見に行ったの、覚えてるか?」
龍我は前を向いたまま返した。
「うん、覚えてる。あのときは、昼間だったよね」
いまは夜で、しかも裸でドライブをしている。それを自覚して、同時にその事実にいたたまれなくなってしまう。
友梨は眉間にしわを寄せて窓の外を見やった。