今宵、お兄ちゃんに夜這いします。
智香(ともか)は先月誕生日をむかえたばかりの23歳。やる気のないOLだ。
なぜやる気がないのかは割愛する。
さあ、今夜は新月。絶好の夜這いびより。
兄の友哉(ゆうや)がひとりで住むマンションに押しかけてシャワーを浴びていた智香は洗面台の前で自分の姿を確認していた。
(うう、恥ずかしい格好……)
乳房があらわになったオープンバストのキャミソールは見ているだけで恥ずかしくなるが、これもすべて兄を落とすため。ショーツの腰ひもをあらためてゆるくリボン結びにした。
両手にこぶしを作って「よしっ」とひとりごとをつむいで気合いを入れる。
それから下着姿のまま、リビングへ向かった。
真夜中の薄暗いリビングを、ぺたぺたと静かな足音を立てながら進む。
つき合っていた彼女にふられてやけ酒をして泥酔中の兄はリビングのソファですうすうと品行方正な寝息を立てて眠っている。
襲うのには絶好の機会だ。これを逃したらきっともうチャンスはおとずれないだろう。
オレンジ色の淡い光に照らされた友哉の顔は麗しい。
この美しさは自分とはまったく別の遺伝子で構成されている。連れ子どうしの再婚だから3歳年上のこの兄とは血がつながっていない。
彼の艶やかな黒髪をそっと撫でる。やわらかく、少しクセがある。
(はあ、やっぱりかっこいい)
友哉と初めて出会ったのは智香が15歳のときだ。
兄になるのだと紹介されたものの、ひとめぼれだった。
おかげで智香の青春は兄への恋慕しかなく、いまだに処女だし男性とつき合ったこともない。
すうすうと静かな寝息の友哉に対して智香の鼻息は荒い。緊張して大仰に呼吸しているせいだ。
(本当、まつ毛が長いな、お兄ちゃんは)
固く閉じられたまぶたを羨望の眼差しで見つめる。
「……ん」
大きくため息をついてしまったからか、友哉の目もとがピクリとわずかに動いた。
智香はあわてて顔を遠ざける。
(ど、どうしよう。やっぱりやめようかな、こんなこと)
友哉には女性として意識されていない。だからこそひとり暮らしの彼の家に泊まるのも許されるのだ。
このまま無難に兄妹関係を続けているほうが、長く一緒にいられるのでは――。
(ううん、でもやっぱりイヤ。お兄ちゃんが誰かのものになっちゃうなんて)
いつかはほかの女性と結婚してしまうだろう。
それよりも先に自分が兄を誘惑して、あわよくばと考えていまこんなことをしている。
(別の女のひとと付き合い始めちゃう前に、モノにしなくちゃ)
智香は口をタコのように尖らせて友哉の唇を目指した。
ソファの端をにぎりしめる両手が震える。
(あと、もう少し……)
どくどくと胸を高鳴らせながら彼に顔を寄せる。
「……コラ、なにやってる」
「ぶっ」
大きな手のひらが智香のあごをつかむ。
「あっ、あの、お兄ちゃん……その」
幸いリビングは小さなオレンジ灯だけだから薄暗い。智香はとっさにソファの下へ身を隠した。
(って、隠れる必要なんかないのよ。このエッチな姿を見せて、お兄ちゃんをメロメロにするんだから……!)
切れ長の二重まぶたと目が合う。
その瞬間、智香は一気に怖気づいて身をすくませた。
「お兄ちゃん、えっと……」
「なんだー? まだ愚痴があんのか? 聞いてやるから、話せよ」
「そ、そんなんじゃ……。そりゃ、愚痴はあるけども、いまは……そうじゃなくて」
兄の友哉に仕事の愚痴を散々こぼしては、いつも慰めてもらっていた。しかしいまはそうではない。慰めなんていらない。
「じゃあ、何なんだよ、こんな夜中に……。ああ、のど渇いた」
もとから開いていたワイシャツのボタンをさらにふたつ、みっつとはずしながら友哉がソファにかたひじをつく。起き上がるつもりなのは明白だ。
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智香(ともか)は先月誕生日をむかえたばかりの23歳。やる気のないOLだ。
なぜやる気がないのかは割愛する。
さあ、今夜は新月。絶好の夜這いびより。
兄の友哉(ゆうや)がひとりで住むマンションに押しかけてシャワーを浴びていた智香は洗面台の前で自分の姿を確認していた。
(うう、恥ずかしい格好……)
乳房があらわになったオープンバストのキャミソールは見ているだけで恥ずかしくなるが、これもすべて兄を落とすため。ショーツの腰ひもをあらためてゆるくリボン結びにした。
両手にこぶしを作って「よしっ」とひとりごとをつむいで気合いを入れる。
それから下着姿のまま、リビングへ向かった。
真夜中の薄暗いリビングを、ぺたぺたと静かな足音を立てながら進む。
つき合っていた彼女にふられてやけ酒をして泥酔中の兄はリビングのソファですうすうと品行方正な寝息を立てて眠っている。
襲うのには絶好の機会だ。これを逃したらきっともうチャンスはおとずれないだろう。
オレンジ色の淡い光に照らされた友哉の顔は麗しい。
この美しさは自分とはまったく別の遺伝子で構成されている。連れ子どうしの再婚だから3歳年上のこの兄とは血がつながっていない。
彼の艶やかな黒髪をそっと撫でる。やわらかく、少しクセがある。
(はあ、やっぱりかっこいい)
友哉と初めて出会ったのは智香が15歳のときだ。
兄になるのだと紹介されたものの、ひとめぼれだった。
おかげで智香の青春は兄への恋慕しかなく、いまだに処女だし男性とつき合ったこともない。
すうすうと静かな寝息の友哉に対して智香の鼻息は荒い。緊張して大仰に呼吸しているせいだ。
(本当、まつ毛が長いな、お兄ちゃんは)
固く閉じられたまぶたを羨望の眼差しで見つめる。
「……ん」
大きくため息をついてしまったからか、友哉の目もとがピクリとわずかに動いた。
智香はあわてて顔を遠ざける。
(ど、どうしよう。やっぱりやめようかな、こんなこと)
友哉には女性として意識されていない。だからこそひとり暮らしの彼の家に泊まるのも許されるのだ。
このまま無難に兄妹関係を続けているほうが、長く一緒にいられるのでは――。
(ううん、でもやっぱりイヤ。お兄ちゃんが誰かのものになっちゃうなんて)
いつかはほかの女性と結婚してしまうだろう。
それよりも先に自分が兄を誘惑して、あわよくばと考えていまこんなことをしている。
(別の女のひとと付き合い始めちゃう前に、モノにしなくちゃ)
智香は口をタコのように尖らせて友哉の唇を目指した。
ソファの端をにぎりしめる両手が震える。
(あと、もう少し……)
どくどくと胸を高鳴らせながら彼に顔を寄せる。
「……コラ、なにやってる」
「ぶっ」
大きな手のひらが智香のあごをつかむ。
「あっ、あの、お兄ちゃん……その」
幸いリビングは小さなオレンジ灯だけだから薄暗い。智香はとっさにソファの下へ身を隠した。
(って、隠れる必要なんかないのよ。このエッチな姿を見せて、お兄ちゃんをメロメロにするんだから……!)
切れ長の二重まぶたと目が合う。
その瞬間、智香は一気に怖気づいて身をすくませた。
「お兄ちゃん、えっと……」
「なんだー? まだ愚痴があんのか? 聞いてやるから、話せよ」
「そ、そんなんじゃ……。そりゃ、愚痴はあるけども、いまは……そうじゃなくて」
兄の友哉に仕事の愚痴を散々こぼしては、いつも慰めてもらっていた。しかしいまはそうではない。慰めなんていらない。
「じゃあ、何なんだよ、こんな夜中に……。ああ、のど渇いた」
もとから開いていたワイシャツのボタンをさらにふたつ、みっつとはずしながら友哉がソファにかたひじをつく。起き上がるつもりなのは明白だ。