「まっ、待って! お水、私がとってくるからお兄ちゃんはそのままでいて。目は、閉じてて!」
大声でそう叫ぶと、友哉は怪訝な顔をした。ただ、それだけだ。起き上がるのをやめようとはしない。
「……っ」
息をのんだのは、ふたりとも。
智香はむきだしの乳房を隠すべく両腕を正面に張りつけてうつむいた。
友哉は目を見ひらいて、しかし床に座り込んだままの彼女から視線を逸らしたりはせず、むしろじいっと凝視している。
「……水、くれよ」
降ってきた声には何の抑揚もない。
(あきれられてる……?)
それもそうだ。真夜中にこんな格好で兄を襲おうとしていたのだから。
「智香」
「はっ、はい」
うつむいたまま立ち上がり、すぐにまわれ右をして台所へ駆ける。
智香が身に着けている紫色のキャミソールとショーツは透けている。だからうしろを向いたらお尻が丸見えになる。
(ううっ、見られてる)
冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してグラスに注いでいた。
ちらりとうしろを盗み見ると、友哉は相変わらず智香を注視していた。
無駄に大きな尻を見られている。なぜこんな格好をしているのだと深く後悔する。兄を襲うのだという気概はすっかり消えうせていた。
両手でグラスを持って、ぺたぺたと足音を響かせながら友哉のもとへ戻る。
「……どうした? 早く、くれ」
智香はグラスを渡せずにいた。
グラスを差し出したら――胸が、さらけ出されてしまう。
いや、もともとオープンバストだから乳房は露呈しているのだが、いまは両腕で押さえている。
「あ、あの」
兄を見おろす。友哉は「うん?」と静かに答えて首をかしげた。
(どうしてなにも言ってくれないのよ)
あられもない姿の智香にはひとこともツッコミをいれてくれない。そんな友哉が少し憎らしい。
智香はおそるおそる、グラスを差し出した。
彼の手がこちらに伸びてきた。しかしその手の行く先は、水の入ったグラスではない。
「ひゃっ……!」
智香が持つグラスを通り越して、その先のふくらみに友哉の手が触れた。左の乳房の、外側のあたりを指でふにっと持ち上げられている。
手の力が抜けて、グラスを落としそうになる。
「で、おまえは何でそんな格好してるわけ?」
「あ、う、その……」
意を決して、素直に口をひらく。
「お兄ちゃんのこと、襲おうと思って」
「……ふうん?」
兄の右手が乳房から離れ、グラスをつかむ。友哉はなかの水をいっきに飲み干して、ローテーブルのうえに空のグラスを置いた。
「じゃ、どうぞ。襲ってください」
両手を広げてソファに寝転がる、友哉。ベッドにもなるこのソファは座面が広い。
緊張で手足が震える。兄がどういうつもりなのかわからなくて、戸惑う。それでも、このチャンスを逃してはいけないと思うから智香は積極的に動く。
「よい、しょ……」
つぶやきながら兄に馬乗りになった。さて、これからどうしよう。
「えっと、襲うって……なにすればいいのかな」
友哉の顔が妙な具合に歪んでいく。笑いをこらえている表情だ。
「とりあえず、キスでもしてみれば」
ふんっと鼻から息を吐いてうなずき、両ひじを折って顔を寄せる。両手はあいかわらずプルプルと震えている。
「……キスって、どうすればいいの?」
あと数センチの位置まで迫ったところで、智香はピタリと動きを止めた。
顔が熱い。キスひとつ満足にできないことが恥ずかしい。
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大声でそう叫ぶと、友哉は怪訝な顔をした。ただ、それだけだ。起き上がるのをやめようとはしない。
「……っ」
息をのんだのは、ふたりとも。
智香はむきだしの乳房を隠すべく両腕を正面に張りつけてうつむいた。
友哉は目を見ひらいて、しかし床に座り込んだままの彼女から視線を逸らしたりはせず、むしろじいっと凝視している。
「……水、くれよ」
降ってきた声には何の抑揚もない。
(あきれられてる……?)
それもそうだ。真夜中にこんな格好で兄を襲おうとしていたのだから。
「智香」
「はっ、はい」
うつむいたまま立ち上がり、すぐにまわれ右をして台所へ駆ける。
智香が身に着けている紫色のキャミソールとショーツは透けている。だからうしろを向いたらお尻が丸見えになる。
(ううっ、見られてる)
冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してグラスに注いでいた。
ちらりとうしろを盗み見ると、友哉は相変わらず智香を注視していた。
無駄に大きな尻を見られている。なぜこんな格好をしているのだと深く後悔する。兄を襲うのだという気概はすっかり消えうせていた。
両手でグラスを持って、ぺたぺたと足音を響かせながら友哉のもとへ戻る。
「……どうした? 早く、くれ」
智香はグラスを渡せずにいた。
グラスを差し出したら――胸が、さらけ出されてしまう。
いや、もともとオープンバストだから乳房は露呈しているのだが、いまは両腕で押さえている。
「あ、あの」
兄を見おろす。友哉は「うん?」と静かに答えて首をかしげた。
(どうしてなにも言ってくれないのよ)
あられもない姿の智香にはひとこともツッコミをいれてくれない。そんな友哉が少し憎らしい。
智香はおそるおそる、グラスを差し出した。
彼の手がこちらに伸びてきた。しかしその手の行く先は、水の入ったグラスではない。
「ひゃっ……!」
智香が持つグラスを通り越して、その先のふくらみに友哉の手が触れた。左の乳房の、外側のあたりを指でふにっと持ち上げられている。
手の力が抜けて、グラスを落としそうになる。
「で、おまえは何でそんな格好してるわけ?」
「あ、う、その……」
意を決して、素直に口をひらく。
「お兄ちゃんのこと、襲おうと思って」
「……ふうん?」
兄の右手が乳房から離れ、グラスをつかむ。友哉はなかの水をいっきに飲み干して、ローテーブルのうえに空のグラスを置いた。
「じゃ、どうぞ。襲ってください」
両手を広げてソファに寝転がる、友哉。ベッドにもなるこのソファは座面が広い。
緊張で手足が震える。兄がどういうつもりなのかわからなくて、戸惑う。それでも、このチャンスを逃してはいけないと思うから智香は積極的に動く。
「よい、しょ……」
つぶやきながら兄に馬乗りになった。さて、これからどうしよう。
「えっと、襲うって……なにすればいいのかな」
友哉の顔が妙な具合に歪んでいく。笑いをこらえている表情だ。
「とりあえず、キスでもしてみれば」
ふんっと鼻から息を吐いてうなずき、両ひじを折って顔を寄せる。両手はあいかわらずプルプルと震えている。
「……キスって、どうすればいいの?」
あと数センチの位置まで迫ったところで、智香はピタリと動きを止めた。
顔が熱い。キスひとつ満足にできないことが恥ずかしい。