満員電車のデキゴコロ 《 01

 薄桃色の花びらが舞う祝いの季節。新生活に心躍る、うららかな春。

「うぅっ、く……!」

 晴れやかな気分とさわやかな気候とは裏腹にうめく。
 通勤、通学時間帯の電車を美奈《みな》はあなどっていた。

(こんなに窮屈だなんて……っ)

 四方を人の壁にはばまれていて息苦しい。
 真新しいセーラー服は今日初めて袖を通して外出したというのに、すでにしわくちゃになりつつある。

「――美奈ちゃん、大丈夫?」
「あ……優人くん」

 人の壁のスキマをぬってこちらに近づいてくるのは8つ年上の幼なじみだ。
 1年前に社会人になった彼のスーツ姿は最近ようやく板についてきた。
 優人《ゆうと》は美奈の前までやってくると、彼女をかばうように足を広げて立った。

「ありがとう、優人くん」

 背中はあいかわらず押されっぱなしだが、前は彼のおかげでかなり楽になった。

「美奈ちゃん、びっくりしたんじゃない? 俺も初めてこれに乗ったときは会社に着く前に疲れちゃってさ」
「うん、こんなに混んでて苦しいなんて、知らなかった……。優人くん、毎朝たいへんなんだね」

 美奈の言葉に優人は苦笑いを浮かべて肩をすくめた。

「もう慣れちゃったけどね」
「そっか……。私は、慣れるまでにまだまだ時間がかかりそう」

 ガタン、ゴトンという走行音がゆるやかになっていく。もうすぐ駅に到着する。しかしまだ、降車駅ではない。

「んぐっ、ぐ……!」

 降りる人と乗る人が入り乱れて車内がいっそう混雑する。
 美奈と優人のあいだの距離が変わった。
 ふたりのあいだにはもうほとんど隙間がない。美奈は優人に抱きついているような状態だ。
 両腕を彼とのあいだに挟み込んではいるが、体を押し付けてしまっている。

「ごめんね、苦しいよね?」

 謝りながら優人を見上げる。

「……ん。へいき」

 美奈はパチパチと数回まばたきをした。きっと見間違いではない。彼の頬が真っ赤に染まっている。

(もしかして、意識されてる……?)

 ひそかに想いを寄せてきた、となりの家のお兄ちゃん。8つも年が離れているから、妹くらいにしか思われていないのだと、あきらめていたのだが――。

(あ……当たって、る)

 ピタリと密着しているからこそわかる。彼のオスの部分が、大きく硬くふくらんでいる。
 美奈はそのことを確かめるかのように身をよじった。
 決して、刺激しようと思ってしたわけではない。

「……誘ってる?」

 美奈の肩が大きく跳ねる。
 電車の走行音にかき消されそうなほど小さな声で優人はささやいた。けれど、耳のすぐそばだったから聞き漏らしたりはしなかった。

「……っ」

 そんなつもりはない、とすぐに否定しなければならないのに、口からはなにも言葉が出てこない。

 彼の手がなまめかしく動く。白いセーラー服の背をゆるゆると撫でおりる。
 美奈は息を吸い込み、そのまましばし止まった。

(優人くんに、さわられてる――)

 服の上から背中を撫でまわされている。ただそれだけだというのに、彼の手が下着のホックのあたりをかすめると、きゅうっと下半身がうずいてどうしようもなくなってしまう。

(で、でも、こんなこと……)

 まわりには大勢、人がいるのだ。たとえ服の上からだろうと、背徳感は余り有る。

「……っぁ」

 するり、と大きな手がスカートのなかに滑り込んだ。
 あわてて優人を見上げるものの、彼の表情は先ほどとなんら変わらない。むしろ落ち着いているようにも見える。

「ふ……ぅっ」

 色っぽく息を吐き、美奈は腰をくねらせた。
 優人の手がショーツごしに割れ目を撫でたどっている。ひどく緩慢だ。

(気持ちいい……)

 いけないことをされて、ふしだらな反応をしてしまっているとわかっている。いや、だからこそよけいに秘所が潤んでしまうのかもしれない。
 湿りを帯びた美奈の秘裂に、優人の指が生地を押して食い込む。

「……っく」

 思わず大声を上げてしまいそうになった。しかしこらえる。
 電車のなかは静かではないけれど『そういう』声を出してしまったら、まわりの人に気づかれてしまう。
 荒くなっていく息遣いが自分のものだとは思えなかった。現実味がないのだ。
 優人を想ってひとりですることはよくある。いまは妄想が現実になっていて、しかも――満員電車のなかだ。
 美奈は右手で自身の口を覆った。妙な声を出さないようにするためだ。
 こらえる美奈をしげしげと見おろし、優人は彼女の秘芯をショーツを隔ててグニグニと刺激する。

「ん……っ」

 ショーツごしだが、彼の指を濡らしてしまっている自信がある。これほどまでにあふれているのは人生で初めてだ。決して誇張した表現ではない。

「……っふ!」

 一瞬のことだった。スルリ、と優人の指がショーツの端からなかへくぐり込んだ。
 潤みきった割れ目をゆるゆると指がたどり、つぷっ、と蜜口に沈む。

(あ、あ……っ。指が、ナカに)

 ひとりでするときはナカに指を挿れない。なんとなく、怖いからだ。
 くちゅっ、ぐちゅちゅっと身のうちに入り込んでいく指には違和感を覚える。しかし同時に、いまだかつて体験したことのない快感にも見舞われた。
 優人は美奈の蜜壷を中指でまさぐりながら、親指の腹で花芯を押しつぶした。

「ぁっ……!!」

 声を抑えているのがつらくなる。美奈は唇を一文字に引き結んで、ひたすら快楽に耐えた。

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