耳もとをかすめるのは熱い吐息。彼もまた興奮しているのだろうか。
「んっ……。は、ぅ……っ」
電車が橋にさしかかって、振動の具合が変わる。小刻みにうごめく指の動きにくわえて、外側からも揺さぶられている。
美奈は口を押さえていないほうの手で優人のスーツのジャケットをぎゅうっとつかんだ。そんなふうにジャケットをつかんでいたらシワが寄ってしまうのだが、このときはそんなことを考えている余裕はなかった。
彼の指の動きはどんどん速さを増していく。ちょうど電車も橋を渡り終えて、スピードが上がった。
ぐちゅちゅとナカを引っかきまわされている。水音がまわりに聞こえていないか、とても不安だ。そうして快感を煽られているところに、
「――美奈ちゃん」
吐息交じりのつやっぽい声でポツリと名を呼ばれ、いっきに快感が高まって弾けとぶ。
「……っ! ンンッ……」
びくびくと下半身が甘く打ち震える。名残り惜しそうに、優人の指が遠のいていく。
「もうすぐ美奈ちゃんが降りる駅だ」
優人がボソボソと言った。美奈は恍惚とした表情のまま彼を見つめる。
(これで、終わり……?)
頭のなかの理性的な部分が「イエス」と答える。
これから入学式だし、優人だって仕事がある。けれど離れがたいのは、この戯れが気の迷いで終わってしまうかもしれないと思ったからだ。
「――っ、優人くん、わたし……」
美奈が口をひらく。タイミング悪く電車が駅に到着してしまう。
「……いってらっしゃい。学校まで、気をつけてね」
人ごみに押されて遠ざかっていく。
優人の顔は、憂いを帯びて見えた。
ただいま、と心のなかだけで言う。
入学式を終えた美奈はひとりで家へ帰宅した。母親は仕事へ行ってしまった。出張だと言っていたので、2、3日は帰らない。
美奈はリビングのソファに寝転がってスマートフォンの画面を眺めた。
KINEアプリを立ち上げ、優人にメッセージを送る。これはいつものことだ。いつもどおり『今日は晩御飯、いる?』と尋ねた。
優人の家はとなりだ。母子家庭の美奈に対して優人の家は父子家庭。彼の父親は海外出張中なのでほとんど家にいない。優人が美奈の家で夕飯を食べるのは日常的なことだった。
(いつもどおりの、ことなのに……)
メッセージを送ったものの、彼はまだ仕事中なのですぐには既読はつかないし返事もこない。それはわかっていることなのに、今日はとても気になってしまう。
美奈はそわそわと体を動かしながら返事を待つ。
ピロリン♪ というメッセージの受信音に、心臓が跳ねる。
『ご飯、いる。7時に帰る』
返信はそれだけだ。いつもとなんら変わりない。
(このままうやむやになっちゃったら、どうしよう)
スマートフォンを手にしたままノソリと起き上がる。
このまま、今朝のことはなかったことにされてしまったら――。
(……ううん。とにかく晩ご飯を作ろう)
時計を仰ぎ見る。5時をわずかばかり過ぎたところだ。
(買い物に行かなくちゃ)
もたもたしていたら、優人が帰ってくるまでに食事を作り終えることができない。
美奈は制服のまま、財布を片手に家を出た。
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「んっ……。は、ぅ……っ」
電車が橋にさしかかって、振動の具合が変わる。小刻みにうごめく指の動きにくわえて、外側からも揺さぶられている。
美奈は口を押さえていないほうの手で優人のスーツのジャケットをぎゅうっとつかんだ。そんなふうにジャケットをつかんでいたらシワが寄ってしまうのだが、このときはそんなことを考えている余裕はなかった。
彼の指の動きはどんどん速さを増していく。ちょうど電車も橋を渡り終えて、スピードが上がった。
ぐちゅちゅとナカを引っかきまわされている。水音がまわりに聞こえていないか、とても不安だ。そうして快感を煽られているところに、
「――美奈ちゃん」
吐息交じりのつやっぽい声でポツリと名を呼ばれ、いっきに快感が高まって弾けとぶ。
「……っ! ンンッ……」
びくびくと下半身が甘く打ち震える。名残り惜しそうに、優人の指が遠のいていく。
「もうすぐ美奈ちゃんが降りる駅だ」
優人がボソボソと言った。美奈は恍惚とした表情のまま彼を見つめる。
(これで、終わり……?)
頭のなかの理性的な部分が「イエス」と答える。
これから入学式だし、優人だって仕事がある。けれど離れがたいのは、この戯れが気の迷いで終わってしまうかもしれないと思ったからだ。
「――っ、優人くん、わたし……」
美奈が口をひらく。タイミング悪く電車が駅に到着してしまう。
「……いってらっしゃい。学校まで、気をつけてね」
人ごみに押されて遠ざかっていく。
優人の顔は、憂いを帯びて見えた。
ただいま、と心のなかだけで言う。
入学式を終えた美奈はひとりで家へ帰宅した。母親は仕事へ行ってしまった。出張だと言っていたので、2、3日は帰らない。
美奈はリビングのソファに寝転がってスマートフォンの画面を眺めた。
KINEアプリを立ち上げ、優人にメッセージを送る。これはいつものことだ。いつもどおり『今日は晩御飯、いる?』と尋ねた。
優人の家はとなりだ。母子家庭の美奈に対して優人の家は父子家庭。彼の父親は海外出張中なのでほとんど家にいない。優人が美奈の家で夕飯を食べるのは日常的なことだった。
(いつもどおりの、ことなのに……)
メッセージを送ったものの、彼はまだ仕事中なのですぐには既読はつかないし返事もこない。それはわかっていることなのに、今日はとても気になってしまう。
美奈はそわそわと体を動かしながら返事を待つ。
ピロリン♪ というメッセージの受信音に、心臓が跳ねる。
『ご飯、いる。7時に帰る』
返信はそれだけだ。いつもとなんら変わりない。
(このままうやむやになっちゃったら、どうしよう)
スマートフォンを手にしたままノソリと起き上がる。
このまま、今朝のことはなかったことにされてしまったら――。
(……ううん。とにかく晩ご飯を作ろう)
時計を仰ぎ見る。5時をわずかばかり過ぎたところだ。
(買い物に行かなくちゃ)
もたもたしていたら、優人が帰ってくるまでに食事を作り終えることができない。
美奈は制服のまま、財布を片手に家を出た。