コタツにミカンとデザートを 《 01

年末年始は一年でいちばん好きな時期だ。学校が休みだからっていうのもあるけれど、大好きなひとに会えるから、好きだ。
三上(みかみ) 彩菜(あやな)は居間でテレビを見ながらミカンをほおばっていた。
足もとはコタツにすっぽり覆われているので、とても暖かい。両親は本家へ行っている。彩菜は一人でのんびりと年末特番を眺めていた。
コタツは鬼をも眠らせるっていう言葉を聞いた事があるけれど、本当にそうだと思う。いや、私は鬼なんかじゃないけどね。

とにかく、ミカンを食べてテレビを見ていたら異様なまでの眠気に襲われて、受験勉強そっちのけでウトウトしていたら、

「こ~ら、大丈夫か受験生」

コツンと頭を小突かれて、彩菜はパチパチと複数回まばたきをした。

「お兄ちゃん、お帰り」

慌ててペンを握ったけれど、ミカンの皮をテーブルに放置してテレビも付けっ放しだったから、勉強に身が入っていなかったのはバレバレだろうな。

「熊乃大に受かる気あんのか?」

お兄ちゃんは悪戯っぽく笑ったあと、コートとスーツのジャケットを部屋の隅にハンガー掛けして、ネクタイをゆるめながらとなりにもぐり込んできた。
彼は毎年、仕事おさめの日に実家へ戻ってくる。彩菜はいつもそれを楽しみにしていた。

「お兄ちゃん、晩ご飯は食べた?」

「うん、食ってきた」

「そっか。今年もお仕事お疲れ様でした。さっそくだけどお兄ちゃん、ココ教えて」

「おいおい、まだ働かせる気かよ」

高校教師をしている兄を大学受験勉強に利用しない手はない。彩菜は彼に教えてもらおうとあらかじめチェックしていた参考書のページをひらいた。

「こんなのもわからなくて、本当に大丈夫かぁ?」

身を寄せられて、トンと彼の肩が触れた。
彩菜は瞬間的に指先までドクンと脈を感じたが、急に身体を離しては変に思われてしまうかもしれないから、そのまま動かなかった。
三上(みかみ) 孝義(たかよし)と兄弟になったのは今から5年ほど前で、彼は当時まだ大学生だったけれど、この家はすでに出ていたから、一緒に住んだ事はない。

「――菜、彩菜。聞いてんのか」

呼ばれているのに気が付いて横を向いたら、彼の唇に肌が触れそうになった。

「あ、ごめん……聞いてなかった」

「……親父たちは本家に行ってるのか?」

彩菜は目を丸くした。いつもなら話を聞いていない事を怒るのに、今日は違うからだ。

「うん、毎年恒例の忘年会に行ってる。私は今年、受験だから行かなくてよかったけど。あれ、お兄ちゃんは呼ばれてるんじゃないの?」

「俺は明日、帰ってくる事になってんだよ。親戚のじいさんたちを相手に一晩中、付き合わされるのは勘弁だからな」

孝義は黒い前髪をかき上げた。その仕草が妙に色っぽくて、彩菜は頭の中に浮かんだ不埒な考えを払拭するように参考書に目を向けた。

「お兄ちゃん、ごめん。もう一回最初から教えてくれない?」

「やだ。少し休憩」

孝義はテーブルのうえのミカンを手に取って皮をむいて食べ始めた。

「ミカンのあとはデザートが食いたいな」

兄はポツリと言った。彩菜は冷蔵庫のなかを思い浮かべて、

「じゃあ私、買ってくるよ。お兄ちゃんのぶんのプリン、食べちゃったんだ」

「別にいいよ。あるから」

「何か買ってきてたの?」

「買えるもんなら買うんだけどな」

彼は最後のひとかけらを口に入れ、そのまま指を舐めた。何気なくそれを見つめていたら、急に目が合って、彼が先ほど舐めたばかりの指が唇に入ってきた。

「んむ……っ!?」

かすかにミカンの味がした。
お兄ちゃんは何でこんな事をするんだろう。話を聞いてなかったの、やっぱり怒ってるのかな。

「んん、ん……っ!」

今度はもっと生々しいものを押し込まれた。両肩をつかまれ、唇を塞がれたまま畳のうえに寝転ぶ格好になった。
下半身はコタツから出てしまったから、寒い。けれどそれを気にする間もなく孝義の舌は彩菜のそれを絡め取ってなぶり始めた。
押し倒されてキスされるなんて初めてだった。お兄ちゃんにされるのはもちろんそうだけれど、男の人にキスされること自体が初めてだ。
にゅるり、にゅるりと口内で舌を追いまわされて、彩菜はなす術なく彼の舌に捕らわれた。

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