「あ、えっと、彼はですね……」
正直に話していいものかと迷ってしまう。狼狽するリルの代わりにオーガスタスが口をひらく。
「はじめまして、こんな格好で申しわけございません。僕はオーガスと申します」
(オ、オーガス?)
頭のなかに疑問符を浮かべるリルのうしろに立ったオーガスタスがべらべらと嘘の身のうえばなしを始める。
「僕、薬学を学ぶために各国を旅してまわっているんです。この森の薬草はじつに種類が多くて興味深い。それで、森を散策していたところたまたまリルさんにお会いして、薬草のことを教えてもらうため、この屋敷にしばらく置いてもらうことになったんです」
そこまで言い終わると、オーガスタスはふうっと物憂げに息を吐いた。
「しかしこの屋敷に向かう途中で、うっかり荷物をすべて川に落として――流されてしまったんです。それで、着替えがなくて困っているんです」
話し終えたオーガスタスをリルが補足する。
「彼の着替えがないのを忘れていて、私がすべて洗濯してしまったんです。それでオーガスタ……こほん、オーガスさんはこんな格好を」
嘘をつくのはあまり得意ではない。声がうわずっていないか心配だが、マレットが疑っているようすは見られない。
「……それは、大変でしたね。では俺が彼の服を調達してまいりましょう」
「あ、ありがとうございます。マレット男爵」
リルが顔をほころばせると、マレットもそれにつられたのか微笑した。
オーガスタスはふたりのようすを交互に見つめて口を挟む。
「それはそれは、本当に助かります。僕はルアンブル国第二王子つきの薬剤師をしています。衣服の請求はかの国の第二王子宛てにお願いします」
「ルアンブル国の第二王子宛てに請求、ですか。……承知いたしました。ではすぐに持ってまいります」
「えっ!? いえ、そんな……お忙しいでしょう?」
リルは眉尻を下げてマレットを見上げた。彼の表情が曇る。
「かまいません。あなたを、裸の男と一緒になんて――」
マレットの言葉の最後のほうはとても小さく、ぼそぼそと言っていたので聞き取れなかった。
「あの、マレット男爵?」
「――いえ、なんでもありません。ああ、そうだ。なんならレディ・マイアーもご一緒にいかがですか。あなたが直接、彼の服をお選びください。そのあとまた馬車でこちらへお送りしますから」
「そう、ですね……」
それならば、服を手に入れたらひとりで歩いて帰ってくることもできるが――。
ちらりと王子を見やる。ああ、泣き出しそうな顔をしている。
「僕、ここにひとりでいるのは不安だな……。だって、この格好だし。変質者が家のなかに押し入ってきて、襲われたらどうしよう」
そうしてオーガスタスは頭を抱えた。
「――と、おっしゃっているので私はここに残ります。申しわけございません、せっかくお誘いいただいたのに……。お手数をおかけしますが、よろしくお願いします」
リルはマレットに向かって深く頭を下げた。
いっぽうのマレット男爵は「頭を上げてください」と言いながら、リルのうしろに立つオーガスタスをじいっと見つめていた。
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正直に話していいものかと迷ってしまう。狼狽するリルの代わりにオーガスタスが口をひらく。
「はじめまして、こんな格好で申しわけございません。僕はオーガスと申します」
(オ、オーガス?)
頭のなかに疑問符を浮かべるリルのうしろに立ったオーガスタスがべらべらと嘘の身のうえばなしを始める。
「僕、薬学を学ぶために各国を旅してまわっているんです。この森の薬草はじつに種類が多くて興味深い。それで、森を散策していたところたまたまリルさんにお会いして、薬草のことを教えてもらうため、この屋敷にしばらく置いてもらうことになったんです」
そこまで言い終わると、オーガスタスはふうっと物憂げに息を吐いた。
「しかしこの屋敷に向かう途中で、うっかり荷物をすべて川に落として――流されてしまったんです。それで、着替えがなくて困っているんです」
話し終えたオーガスタスをリルが補足する。
「彼の着替えがないのを忘れていて、私がすべて洗濯してしまったんです。それでオーガスタ……こほん、オーガスさんはこんな格好を」
嘘をつくのはあまり得意ではない。声がうわずっていないか心配だが、マレットが疑っているようすは見られない。
「……それは、大変でしたね。では俺が彼の服を調達してまいりましょう」
「あ、ありがとうございます。マレット男爵」
リルが顔をほころばせると、マレットもそれにつられたのか微笑した。
オーガスタスはふたりのようすを交互に見つめて口を挟む。
「それはそれは、本当に助かります。僕はルアンブル国第二王子つきの薬剤師をしています。衣服の請求はかの国の第二王子宛てにお願いします」
「ルアンブル国の第二王子宛てに請求、ですか。……承知いたしました。ではすぐに持ってまいります」
「えっ!? いえ、そんな……お忙しいでしょう?」
リルは眉尻を下げてマレットを見上げた。彼の表情が曇る。
「かまいません。あなたを、裸の男と一緒になんて――」
マレットの言葉の最後のほうはとても小さく、ぼそぼそと言っていたので聞き取れなかった。
「あの、マレット男爵?」
「――いえ、なんでもありません。ああ、そうだ。なんならレディ・マイアーもご一緒にいかがですか。あなたが直接、彼の服をお選びください。そのあとまた馬車でこちらへお送りしますから」
「そう、ですね……」
それならば、服を手に入れたらひとりで歩いて帰ってくることもできるが――。
ちらりと王子を見やる。ああ、泣き出しそうな顔をしている。
「僕、ここにひとりでいるのは不安だな……。だって、この格好だし。変質者が家のなかに押し入ってきて、襲われたらどうしよう」
そうしてオーガスタスは頭を抱えた。
「――と、おっしゃっているので私はここに残ります。申しわけございません、せっかくお誘いいただいたのに……。お手数をおかけしますが、よろしくお願いします」
リルはマレットに向かって深く頭を下げた。
いっぽうのマレット男爵は「頭を上げてください」と言いながら、リルのうしろに立つオーガスタスをじいっと見つめていた。