森の魔女と囚われ王子 《 第四章 07

「あ、ぁ……!」

 閉ざされた視界のせいで、リルの薄桃色はいつになく過敏だ。いつ乳頭をつつかれるのかまったく予測がつかない。

「じれったくなってきた?」
「んんっ、ぅ……ッ」

 わかっているくせに、あえて聞かないでほしい。リルがねだるのを待っているのだろう。

「はや、く……さわって……。オーガスタス……!」

 羞恥心が性欲に負けた。いましがた口走ったこの言葉を、彼がどうとらえたのかリルにはわからない。オーガスタスはなにも答えない。

「……オーガスタス?」

 ハンカチが作り出した真っ暗闇のなか、急かす意味も込めてふたたび呼びかけた。

「――っぁ、ああ!!」

 すると、ぐにゃりと荒っぽく両方の乳房をつかまれた。生温かいものがその頂点を見舞う。
 オーガスタスはリルの双乳をつかんで中央に寄せ、ふたつのいただきを舌で性急に舐めしゃぶった。乳首に舌を這わせたまま彼女の体を強引に横たえ、片手で脚の付け根をまさぐる。

「ひぁっ、あぁうっ、ンンッ……!」

 いきなりいろんなところを攻め立てられ、わけがわからない。頭のなかは混乱しているが、体はしっかりと感じていた。蜜壷からあふれた愛液をオーガスタスは指で絡め取り、花芽に塗りこめていく。
 乳首には先ほどから右、左と舌がべろべろと行き交い、硬くしこったそこに、これでもかと揺さぶりをかける。

「アアッ、ぅ、んぁぁ――……ッ!!」

 下半身の小さな豆粒をきゅっ、とつままれた瞬間、リルのなかで快感が弾けた。肉襞はびくびくと収縮し、絶頂の心地よい波が全身に広がっていく。

「リル……」

 かすれ声で名を呼ばれた。
 急に、まぶたの向こう側が明るくなった。リルはゆっくりと目を開ける。
 ――思いがけず、見とれてしまった。青と金の、曇りのない麗しい双眸がすぐそこにあった。
 しかし、それがあからさまにかげる。オーガスタスはリルの視線を避けるように顔をそむけ、彼女の手首に巻き付いていた蔦をほどいていった。

「……ねえ、リル。やっぱり気味が悪いでしょう? 左右で色が違うこの忌々しい瞳が」

 森で少年に言われたことを気にしているのだろうか。いや、そもそものコンプレックスなのだろう。ひとと違うところを持っているという点では同じだから、その気持ちはよくわかる。

「気味が悪いだなんて、思わないわ」

 リルはきっぱりと否定し、本心を告げる。

「あなたの瞳は、青空に輝く太陽を思わせる」

 すう、はあと呼吸を整えてリルはオーガスタスの両頬を手のひらで覆った。視線を逸らせないよう、両手で固定する。

「あるいは、未明の空に浮かぶ月。そういう……悠然とした美しさを感じる」

 まっすぐに彼の瞳を見つめて、言いたかった。嘘偽りはかけらもないのだと、伝わっただろうか。
 しばらくそうして見つめ合っていた。
 オーガスタスの口角が、ゆるやかに上がっていく。

「――女性に口説かれるなんて、初めてだよ」

 見間違いでなければ、彼の瞳は潤んでいる。それは、晴れ渡る空の気まぐれな雨か、あるいは月夜のにわか雨。
 涙ぐんでいるのを気取られないためか、オーガスタスはまぶたを閉ざした。

「きみは僕を否定してくれるから好きだ。もちろん、いい意味で」

 ふたたびその瞳がまみえたとき、雨粒は影も形もなかった。透き通った強い光を取り戻して、いっそう輝いている。

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