「まっ、待って! ふたりとも、なにを言っているの」
「あら、とぼけてもだめよ、リル。わたくしたち、オーガスタスから少しだけ聞き出しているんだから。肝心なところは、なかなか口を割ってくれないけれど……」
イザベラが恨めしそうにオーガスタスをにらんでいる。いっぽうのオーガスタスは両の手のひらを肩のところまで掲げてとぼけてみせた。
オーガスタスもイザベラも、カトリオーナもそうだがみな気さくなので、打ち解けるのにそう時間を要さなかったようだ。
「リルお姉さま、教えてちょうだい。どうなの?」
「わたくし、以前からあなたとこういう話をしたかったのよ。リルったらひとつも浮いた話題がないものだから」
「あ、ええと……っ、その」
カトリオーナとイザベラの顔を交互に見つめてうろたえる。
ああ、こうしてふたりに目を向けてみてわかった。彼女たちの髪色はオーガスタスの瞳とそっくりだ。鮮やかな青と、金色。
思わぬ共通点を見つけたリルは、なんとか話を逸らそうと「ああっ!」とわざとらしく声を上げてその発見を雄弁した。
「あら、そんなこと。とっくにオーガスタスと話したわよ? 話題を変えようとしても無駄よ、リル」
イザベラに一蹴され、がくりとうなだれる。
「まあまあふたりとも、リルはまだ熱があるんだし。そのへんにしておいてあげてください」
困り果てるリルを見かねたのか、オーガスタスがドクターストップをかけた。
「あら、すっかり夫気取りね? ……でもたしかに、そのとおりね」
「じゃあ元気になったら事細かにお話を聞かせてね、リルお姉さま」
イザベラとカトリオーナは口々にそう言って、「ではおふたりでごゆっくり」と声をそろえて部屋を出て行った。似たもの親子とは彼女たちのことをいうのだと、リルはつくづく思った。
「はあ……。なんだかよけいに熱が上がった気がするわ」
リルは大げさにため息をついて、残りのスープをすする。
「それはたいへんだ。スープを飲むのもままならないでしょう。僕がやってあげる」
ひょいっ、とスープ皿をソーサーごと、スプーンも一緒に手からかすめ取られる。
「ええっ? そのくらい自分でできるわ」
「僕がやってあげたいだけ。ほら、あーんして」
リルはもともとピンク色だった頬をいっそう濃くしてあごを引き、控えめに口を開けた。
白いスプーンが、吸い込まれるようにそこへおさまる。
「おいしい?」
「……ええ」
「そう。いい香りだもんね、このスープ」
「………」
リルは押し黙ったままだった。
オーガスタスはリルの瞳に射るような視線を送っている。そうして扇情的に見つめられると、あらぬ箇所が疼いてくるので本当にどうしようもない。
リルは彼となるべく目を合わせないようにして、スープを飲み進めた。
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「あら、とぼけてもだめよ、リル。わたくしたち、オーガスタスから少しだけ聞き出しているんだから。肝心なところは、なかなか口を割ってくれないけれど……」
イザベラが恨めしそうにオーガスタスをにらんでいる。いっぽうのオーガスタスは両の手のひらを肩のところまで掲げてとぼけてみせた。
オーガスタスもイザベラも、カトリオーナもそうだがみな気さくなので、打ち解けるのにそう時間を要さなかったようだ。
「リルお姉さま、教えてちょうだい。どうなの?」
「わたくし、以前からあなたとこういう話をしたかったのよ。リルったらひとつも浮いた話題がないものだから」
「あ、ええと……っ、その」
カトリオーナとイザベラの顔を交互に見つめてうろたえる。
ああ、こうしてふたりに目を向けてみてわかった。彼女たちの髪色はオーガスタスの瞳とそっくりだ。鮮やかな青と、金色。
思わぬ共通点を見つけたリルは、なんとか話を逸らそうと「ああっ!」とわざとらしく声を上げてその発見を雄弁した。
「あら、そんなこと。とっくにオーガスタスと話したわよ? 話題を変えようとしても無駄よ、リル」
イザベラに一蹴され、がくりとうなだれる。
「まあまあふたりとも、リルはまだ熱があるんだし。そのへんにしておいてあげてください」
困り果てるリルを見かねたのか、オーガスタスがドクターストップをかけた。
「あら、すっかり夫気取りね? ……でもたしかに、そのとおりね」
「じゃあ元気になったら事細かにお話を聞かせてね、リルお姉さま」
イザベラとカトリオーナは口々にそう言って、「ではおふたりでごゆっくり」と声をそろえて部屋を出て行った。似たもの親子とは彼女たちのことをいうのだと、リルはつくづく思った。
「はあ……。なんだかよけいに熱が上がった気がするわ」
リルは大げさにため息をついて、残りのスープをすする。
「それはたいへんだ。スープを飲むのもままならないでしょう。僕がやってあげる」
ひょいっ、とスープ皿をソーサーごと、スプーンも一緒に手からかすめ取られる。
「ええっ? そのくらい自分でできるわ」
「僕がやってあげたいだけ。ほら、あーんして」
リルはもともとピンク色だった頬をいっそう濃くしてあごを引き、控えめに口を開けた。
白いスプーンが、吸い込まれるようにそこへおさまる。
「おいしい?」
「……ええ」
「そう。いい香りだもんね、このスープ」
「………」
リルは押し黙ったままだった。
オーガスタスはリルの瞳に射るような視線を送っている。そうして扇情的に見つめられると、あらぬ箇所が疼いてくるので本当にどうしようもない。
リルは彼となるべく目を合わせないようにして、スープを飲み進めた。