森の魔女と囚われ王子 《 第五章 11

 スープを飲み終わったあと、皿を片付けたオーガスタスは小ぶりのウォッシュボウルを片手に部屋へ戻ってきた。ボウルからは湯気が立ち込めている。

「さて、体を拭いてあげるね」
「……それは、自分で」

 円卓のうえにウォッシュボウルを置き、ベッド脇に腰をおろしたオーガスタスは静かに首を横に振った。
 リルに有無を言わせない気だ。「自分で体を拭く」と主張するリルには目もくれず、手ざわりのよさそうなタオルをウォッシュボウルの湯に浸けて絞っている。

「あ、そのネグリジェには僕が着替えさせたから。安心して」
「なにが『安心』よ……」
「んー? どういう意味かな」
「へんなこと、しなかったでしょうね」
「なにもしてないよ。へんなことは、ね」

 オーガスタスはホットタオルをボウルの端に引っかけ、その手でリルのネグリジェのすそをつまんだ。

「だっ、だから、いいって言ってるのに」
「うん、『いい』んでしょ? じゃあなにも問題ない」
「もう……っ。そういう意味じゃないってわかってるくせに」

 ネグリジェのすそをまくり上げられまいとしていると、オーガスタスが下から顔をのぞき込んできた。

「そうやって隠したがるのは、逆に不埒なことを期待してるともとれる」
「なっ……!」

 思わず手の力がゆるむ。するとオーガスタスはネグリジェのすそをいっきに引き上げて頭から抜けさせた。

「ちょっ、オーガスタス……!」
「恥ずかしがる必要なんてないと思うけど?」

 ニヤニヤと顔をほころばせながらオーガスタスはリルのシュミーズの肩ひもを両方ともストンと落とした。

「やっ」

 ふくらみが無防備にさらけだされてしまい、そこをとっさに押さえていると、そのあいだにドロワーズをシュミーズごと下から脱がされてしまい――あっという間に、なにも身につけていない状態になってしまった。

(やだ……。どうしてこんなに恥ずかしいの)

 彼に裸を見られるのは一度や二度ではない。もう幾度となくさらしている裸体なのに、いまは異様に羞恥心をあおられる。じろじろと見られているのがいたたまれない。よけいに熱が上がってしまう。
 上気しきったリルの素肌を視線で舐めまわしたあと、オーガスタスは温かく濡れたタオルでそっと柔肌に触れた。

「んっ……」

 ベッドに座ったまま肩をすくめる。背中をゆっくりと撫で上げられている。
 胸はあいかわらず両腕で覆っているので、背から拭くことにしたのだろう。柔らかな生地と、ときおり触れるオーガスタスの温かな手がリルの体を疼かせる。

(いやだ、私……。本当に彼の言うとおりだわ)

 彼の言うとおり、不埒なことを期待しているからこんな反応をしてしまうのかもしれないと思い至り、よけいに恥ずかしくなる。

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