雨の香り、蜜の気配 《 03

「ふぁっ、ぁあ……!」

 もどかしい快感がじわじわと心身を侵していく。衣服の上からの刺激では物足りなくなって、甘ったるい声を上げてねだるものの、彼は一筋縄ではいかない。

「ほら、どうされたいのか言ってみろ」
「はぁっ、ぁ……ッン、くぅっ」

 具体的にどうしてもらいたいのか言わなければ、してくれないのだ。意地悪なひとだと思うけれど、そういうところがよりいっそう官能に火をつけるのには違いない。

「ち、乳首……ちゃんと、じかに……ギュッとして、ください」
「へえ。それから?」
「そ、れから……ぁっ、あ!」

 ワイシャツごしに薄桃色をガリガリと引っかかれ、頭のなかが真っ白になってくる。言葉をつむぐどころではないというのに、蓮沼は耳もとに息を吹き込みながら「早く言うんだ」と急かしてくる。

「あ、ぁ……っ! も……めちゃくちゃに、して……!!」

 まわらない思考回路がなかば無意識にそんな言葉を発した。クスッと彼が笑ったのが、耳に吹きかかった息によってわかった。あきれ笑いか、あるいは嘲笑か。どちらにせよ、蓮沼は愉しんでいる。彼は雫をいじめるのが大好きなのだ。

「めちゃくちゃに、ねえ……?」

 愉悦まじりの笑みを浮かべ、蓮沼はようやく雫の衣服を脱がせ始めた。おそろしく緩慢にワイシャツのボタンをプチプチと外していく。しかし彼が拭い去ったのはシャツだけ。真っ白なフリルレースのブラジャーとショーツには手をつけなかった。

「いつも清純そうな下着をつけてるわりに、きみは淫乱で我慢ができない。すぐに音を上げて……欲しがる」
「うぅっ……」

 湿り気のある指先で、同じように湿っている肌を――乳輪に弧を描かれている。両方ともだ。素直にねだったところで、結局は焦らされてしまうのでは意味がない。けれどだからといって頑なになっていても同じことだ。やはり、いじめられる。

「だって……! 裕貴さんが……っ。意地悪、だから」

 泣きべそをかいて彼を責めても、結果は同じ。

「体たらくを俺のせいにするのか? 責任転嫁はいけないな」
「ぁうっ、ンン……ッ!」

 蓮沼の片手が下半身に伸びて、ショーツの上から淫芽を押す。つかず離れずの微妙な刺激は、もはや生殺しといっても過言ではない。
 乳首にしても同じだ。いただきを避けてフニフニと指で乳輪をかたどられている。
 身の内が、下半身がありえないくらい熱を帯びて、表皮にもそれが伝わってきた。とにかく暑い。雨に降られて風邪を引き、熱を出してしまったのかとさえ思ったが、たぶん違う。この熱はすべて彼のせいだ。

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