優樹菜は湯に浸かってガッツポーズをしていた。
思いがけずデートの約束を取り付けることができた。これぞまさしく嬉しいハプニングだ。
(よっぽど好きなんだろうなぁ、くまっぷまん……)
なぜ彼がそれほどまでに幼児向けのキャラクターに固執しているのか、優樹菜は知る由もなかった。
また、なぜそうなのかと探る気もない。ともに見る映画がなんなのかということよりも、ともに過ごして時間を共有することのほうが重要だ。
(ふふ、楽しみだな)
優樹菜はいっそうにいっと口角を上げて、頬を両手で覆って顔のリフトアップに励んだ。
翌日は見事な快晴だった。まさしくデート日和だ。
昼食を済ませて岩代荘を出たふたりはぽかぽか陽気のなかを駅まで歩いた。
柏村の隣を歩く優樹菜はなかなか落ち着くことができなかった。
彼の私服姿が素敵すぎるせいだ。
コットン系のグレーのテーラードジャケットに白いVネックシャツ、ベージュのチノパンというシンプルな出で立ちだが、きっとスタイルがよいからだろう。モデルさながらのオーラを放っているような気がする。
優樹菜は彼にめろめろだった。
(それに引きかえ私は……大丈夫かな)
露出の多い服だとまた「風邪を引く」と心配されてしまうかもしれないので、オフタートルネックのドルマンスリーブニットワンピースを着ている。
ここのところデートとはほど遠かったから、昨夜はあわてて私室でああでもない、こうでもないとコーディネートに悩み、結局のところあまり気合いの入っていない無難な服装となった。
(なにはともあれ、せっかくのデートなんだから楽しまなくちゃね)
それからふたりはとりとめもない話をしながら駅まで歩き、電車に揺られて映画館に到着した。
「あ、チケット代……」
チケットカウンターで財布を取り出していると「いい、いらない」と断られた。
優樹菜はスタスタと歩いていく柏村に早足でついていく。
ごく真面目な顔つきで『くまっぷまんのドキドキ大冒険、くまの王国編を二枚』と言ってチケットを購入しているさまが面白くて、なんだか可愛らしくて笑いをこらえるのが大変だった。
ポップコーンとオレンジジュースを手に座席につき、上映が始まるのを待つ。まわりは小さな子どもを連れたファミリーがほとんどなので、少しばかり浮いているような気もするがそこはあえてスルーだ。
柏村主任のそばに座っていられるというだけで幸せだ。彼からはなんだかいいにおいがする。もっと香りを吸い込みたくてスンスンと鼻を鳴らす。
「……遠慮せず食べていいぞ」
「――え」
柏村はまだポップコーンに手をつけていない。彼よりも先に食べはじめるのを優樹菜が遠慮しているのだと勘違いしているようだ。
「あ、はは……はい。いただきます」
食べたいのはポップコーンじゃなくてあなたです、などと本当のことが言えるはずもない。
優樹菜は手に持っていたキャラメルポップコーンを手探りでひとつだけつまんで口に運んだのだった。
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思いがけずデートの約束を取り付けることができた。これぞまさしく嬉しいハプニングだ。
(よっぽど好きなんだろうなぁ、くまっぷまん……)
なぜ彼がそれほどまでに幼児向けのキャラクターに固執しているのか、優樹菜は知る由もなかった。
また、なぜそうなのかと探る気もない。ともに見る映画がなんなのかということよりも、ともに過ごして時間を共有することのほうが重要だ。
(ふふ、楽しみだな)
優樹菜はいっそうにいっと口角を上げて、頬を両手で覆って顔のリフトアップに励んだ。
翌日は見事な快晴だった。まさしくデート日和だ。
昼食を済ませて岩代荘を出たふたりはぽかぽか陽気のなかを駅まで歩いた。
柏村の隣を歩く優樹菜はなかなか落ち着くことができなかった。
彼の私服姿が素敵すぎるせいだ。
コットン系のグレーのテーラードジャケットに白いVネックシャツ、ベージュのチノパンというシンプルな出で立ちだが、きっとスタイルがよいからだろう。モデルさながらのオーラを放っているような気がする。
優樹菜は彼にめろめろだった。
(それに引きかえ私は……大丈夫かな)
露出の多い服だとまた「風邪を引く」と心配されてしまうかもしれないので、オフタートルネックのドルマンスリーブニットワンピースを着ている。
ここのところデートとはほど遠かったから、昨夜はあわてて私室でああでもない、こうでもないとコーディネートに悩み、結局のところあまり気合いの入っていない無難な服装となった。
(なにはともあれ、せっかくのデートなんだから楽しまなくちゃね)
それからふたりはとりとめもない話をしながら駅まで歩き、電車に揺られて映画館に到着した。
「あ、チケット代……」
チケットカウンターで財布を取り出していると「いい、いらない」と断られた。
優樹菜はスタスタと歩いていく柏村に早足でついていく。
ごく真面目な顔つきで『くまっぷまんのドキドキ大冒険、くまの王国編を二枚』と言ってチケットを購入しているさまが面白くて、なんだか可愛らしくて笑いをこらえるのが大変だった。
ポップコーンとオレンジジュースを手に座席につき、上映が始まるのを待つ。まわりは小さな子どもを連れたファミリーがほとんどなので、少しばかり浮いているような気もするがそこはあえてスルーだ。
柏村主任のそばに座っていられるというだけで幸せだ。彼からはなんだかいいにおいがする。もっと香りを吸い込みたくてスンスンと鼻を鳴らす。
「……遠慮せず食べていいぞ」
「――え」
柏村はまだポップコーンに手をつけていない。彼よりも先に食べはじめるのを優樹菜が遠慮しているのだと勘違いしているようだ。
「あ、はは……はい。いただきます」
食べたいのはポップコーンじゃなくてあなたです、などと本当のことが言えるはずもない。
優樹菜は手に持っていたキャラメルポップコーンを手探りでひとつだけつまんで口に運んだのだった。