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おそらく気のせいだが、主任をいつもより近くに感じる。
柏村主任が持ってきてくれたヴィンテージワインはいままで飲んだどんなものよりも格別に美味しかった。恋い焦がれるひとと一緒に飲んでいる、というのも起因しているかもしれないが。
つまみはウォッシュチーズだけだけれど、ワインが美味しいのでどんどん飲み進めることができる。
夜は更け、日付けをまたぐまであと数分となったとき。
「――俺のこと、どう思う?」
ワインをあおって、ちゃぶ台の上に置こうとしていた。ゴトッ、とやや乱雑にグラスが台の上に戻る。突如として投げかけられた質問に、面食らってしまった。
柏村が言葉を足す。
「その……俺の部屋は、あんなだが……」
「え……っと」
ああ、そういう意味か――と、きちんと理解するのには、酔いがまわっているせいでしばし時間がかかった。
「え、と……好き、ですよ。……くまっぷまん、私も」
どくっ、どくんと鼓動がうるさい。この動悸はきっと、酔っているからというだけではない。
「……風呂に入るか」
抑揚のない声で柏村がポツリと言った。
「じゃ、じゃあ……準備してきますね」
優樹菜はサッと立ち上がり、風呂場へ急いだ。
(どう思う、だなんて……! つい告白しちゃいそうになっちゃった)
いや、場の勢いに任せて想いを告げておくべきだっただろうか。彼のそばにいられるのはあと二週間だけだ。会社では顔を合わせるだろうけれど、いまほど長くは時間を共有できない。
風呂の準備を終えた優樹菜は居間へ戻り、柏村に「お風呂の準備が整いました」と告げた。
「……では、行こう」
「は、い? あの、どこへ……」
「きみが以前言っていたことだ。一緒に風呂にでも、と。だから……俺の背中を、流して欲しい」
彼が立ち上がる。
つかまれた手首が熱い。
「あ、あのっ、ええ……っ!?」
酔った勢いで一緒に風呂にでも、と誘ったことは確かに覚えている。しかしそれを実現できるとは、正直なところ思っていなかった。
嬉しいやら恥ずかしいやらで戸惑いを隠せずにいると、なかば無理やり脱衣所に押し込まれてしまった。
「……っ!」
壁に体を押し付けられたかと思うと、ブラウスの前ボタンが次々とはずされていった。その手際のよさに驚き、あせる。
「しゅ、主任……! あの、本当に……? っ、ぁ……!」
首すじをちゅうっと吸われ、そちらに気を取られているあいだにブラウスの袖が腕から抜けた。下着のホックをプチンッと弾かれ、胸もとが無防備になる。
頬をかすめる彼の吐息はあり得ないくらい熱い。酒が入っているからだろうか。
スカートのファスナーが下がっていく音を聞きながら柏村主任を見上げた。ほんのりと赤く染まった頬と濡れた瞳はなまめかしい。ぞくぞくっ、とあらぬ箇所が疼いてしまう。