クールでウブな上司の襲い方 《 第二章 05


★☆★

 おそらく気のせいだが、主任をいつもより近くに感じる。

 柏村主任が持ってきてくれたヴィンテージワインはいままで飲んだどんなものよりも格別に美味しかった。恋い焦がれるひとと一緒に飲んでいる、というのも起因しているかもしれないが。
 つまみはウォッシュチーズだけだけれど、ワインが美味しいのでどんどん飲み進めることができる。
 夜は更け、日付けをまたぐまであと数分となったとき。

「――俺のこと、どう思う?」

 ワインをあおって、ちゃぶ台の上に置こうとしていた。ゴトッ、とやや乱雑にグラスが台の上に戻る。突如として投げかけられた質問に、面食らってしまった。
 柏村が言葉を足す。

「その……俺の部屋は、あんなだが……」
「え……っと」

 ああ、そういう意味か――と、きちんと理解するのには、酔いがまわっているせいでしばし時間がかかった。

「え、と……好き、ですよ。……くまっぷまん、私も」

 どくっ、どくんと鼓動がうるさい。この動悸はきっと、酔っているからというだけではない。

「……風呂に入るか」

 抑揚のない声で柏村がポツリと言った。

「じゃ、じゃあ……準備してきますね」

 優樹菜はサッと立ち上がり、風呂場へ急いだ。

(どう思う、だなんて……! つい告白しちゃいそうになっちゃった)

 いや、場の勢いに任せて想いを告げておくべきだっただろうか。彼のそばにいられるのはあと二週間だけだ。会社では顔を合わせるだろうけれど、いまほど長くは時間を共有できない。
 風呂の準備を終えた優樹菜は居間へ戻り、柏村に「お風呂の準備が整いました」と告げた。

「……では、行こう」
「は、い? あの、どこへ……」
「きみが以前言っていたことだ。一緒に風呂にでも、と。だから……俺の背中を、流して欲しい」

 彼が立ち上がる。
 つかまれた手首が熱い。

「あ、あのっ、ええ……っ!?」

 酔った勢いで一緒に風呂にでも、と誘ったことは確かに覚えている。しかしそれを実現できるとは、正直なところ思っていなかった。
 嬉しいやら恥ずかしいやらで戸惑いを隠せずにいると、なかば無理やり脱衣所に押し込まれてしまった。

「……っ!」

 壁に体を押し付けられたかと思うと、ブラウスの前ボタンが次々とはずされていった。その手際のよさに驚き、あせる。

「しゅ、主任……! あの、本当に……? っ、ぁ……!」

 首すじをちゅうっと吸われ、そちらに気を取られているあいだにブラウスの袖が腕から抜けた。下着のホックをプチンッと弾かれ、胸もとが無防備になる。
 頬をかすめる彼の吐息はあり得ないくらい熱い。酒が入っているからだろうか。
 スカートのファスナーが下がっていく音を聞きながら柏村主任を見上げた。ほんのりと赤く染まった頬と濡れた瞳はなまめかしい。ぞくぞくっ、とあらぬ箇所が疼いてしまう。

前 へ    目 次    次 へ