クールでウブな上司の襲い方 《 第二章 07

 自分自身の吐き出す息がやけに熱い。
 柏村主任が持ち出してきたヴィンテージワインは中身がほとんど空になっていた。おそらくふたりともが同じくらいの量を飲んでいる。

「ん……」

 湯気が立ち込める浴室で、優樹菜は彼の背にしがみつくようにして猛る肉塊をわしづかみにしてしごいていた。

「――……っ」

 すると急に柏村が立ち上がった。にゅぷっ、と妙な音が立って手から陰茎が抜けてしまう。

「交代だ」

 柏村は口早にそう言って、優樹菜の腕をつかんで引っ張り上げた。

「えっ、ぅ、ええっ……!?」

 両肩を押され、つい先ほどまで彼が座っていた風呂椅子に座らされる。

「あ、のっ、主任……っ」

 急に攻守が逆転してしまった。いや、もともと浴室へは強引に連れてこられたようなものだから、これが本来の流れなのかもしれないが、もう少し自分のペースで事を運んでいたかった。
 柏村にとっては逆にそれが気に入らなかったのか、優樹菜が片手に持っていた泡まみれのスポンジを奪うようにかすめ取って彼女の素肌に泡を塗りつけていった。

「んっ、ぁ……! くすぐった、い……ッ」

 背中はまだよかった。しかし脇腹はそうはいかない。左側はスポンジで、右側は素手で泡を押し広げられている。

「主任、やめ……っ。くすぐったい、です……!」

 優樹菜は胸もとを両腕で押さえ、うしろを振り返って抗議した。柏村は「ふっ」と鼻で笑う。

「俺の体をいやらしい手つきでさんざんもてあそんでおいて、よく言う」
「そ……っん、な」

 そんなつもりはなかったし、そんなこともしなかったと否定したい。けれどなにも言えなくなった。
 泡まみれの彼の手が、ふくらみにまで伸びてきてしまったからだ。

「ぁ、っん……ッ」

 乳房の下部、腕で覆いきれていない端のほうをスポンジと指先でつつかれている。左右を交互に、感触の違うそれぞれで揺らされ、腕の力がゆるんできてしまう。

「んっ……は、ぁぅっ!」

 彼の両手が優樹菜の腕をかいくぐるのは造作もなかった。ぬめりを帯びた武骨な手が、ふくらみの形をたしかめるように這う。いただきには触れず、円を描いている。
 優樹菜が確固たる意思で、かたくなに腕を胸に押しつけていればきっと触れられることはなかった。しかし、うごめく手がもたらす快感への誘惑に羞恥心はたやすく降伏して、受け入れてしまった。

「あぁ、っん、くぅ……。ふっ、ぁぅ」

 しだいに全身が汗ばんでくる。暑いのもあるが、快感によるものだろう。ひとりでに腰が揺れ、身もだえする。
 柏村は優樹菜が官能的に反応するのを逐一観察し、ささいな変化にすら注視する。彼女に夢中になっている。

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