クールでウブな上司の襲い方 《 第三章 04

 彼の言葉がすぐには頭のなかに入ってこなかった。薄暗闇のなか、優樹菜はパチパチとまぶたを瞬かせる。

「ん、ん……っ!」

 後頭部を押さえつけられるやいなや唇を塞がれ、貪るような情熱的なキスに見舞われた。先ほどの彼の言葉をかみしめるいとまがない。
 ベッドについていた両腕に、初めは力を込めて自分自身を支えていた優樹菜だが、甘くねっとりとした口付けをほどこされ、しだいに自身を支えられなくなって柏村の上に寝そべるかっこうになった。

「……ほかの男にも同じようなことを言ったりしてないだろうな」

 ほんの少しだけ唇が離れ、尋ねられた。優樹菜は即答する。

「し、してません! 断じて」
「………」

 ちゅっ、と一瞬だけ唇をついばまれる。

「こんな部屋にいる男のことが、本当に好きなのか?」

 先ほどよりもさらに早く、答えを返す。

「好きです。襲いに来ちゃうくらい」

 柏村が笑った。やれやれというような、あきれ笑いだ。

(や、やばい……っ)

 彼の笑顔は破壊力バツグンだ。体のあらぬところがジトッと湿り気を帯びてくる。淫猥な反応を、否が応でもしてしまう。
 ふだんの彼は本当にクールで、笑顔なんてほとんど見ることがないので、ギャップ萌えすぎて瀕死だ。

「……どうした?」

 彼に欲情していることを優樹菜は隠さない。

「主任が、笑うから……っ! うぅっ……。好き、です。大好き……。あなたのすべてが、欲しい」

 柏村の表情が妙な具合にゆがんだ。

「……それは俺のせりふだ」

 パジャマのすそからスルリと大きな手がくぐり込み、優樹菜の素肌をなでる。

「体が冷えている」
「主任だって」
「……これから、暑くなるか」

 季節的なことを言っているのか、それともこれからの行為のことを指しているのかわからなかった。
 肩甲骨のあたりにあった手のひらが腰もとまで戻り、パジャマのすそをつかんで引き上げた。

「ひゃっ!?」

 わき腹をつかまれ、体を押し上げられる。柏村は優樹菜のパジャマのすそを胸の上まで引き上げた。彼自身はベッドの下方へ動く。

「あ、あのっ……!」

 優樹菜の頬がとたんに赤くなる。ブラジャーは身につけていなかった。彼の目の前に乳房をさらし、下から見上げられているのが恥ずかしくてたまらない。それに――。

「ま、待ってください。これじゃ、主任の顔が……見えない」

 胸の上でもたついているパジャマが優樹菜の視界を狭くしている。

「見えなくてもいいじゃないか」
「……いや、です。だって――」

 これではいつ触れてくるのか、彼がなにをしようとしているのかサッパリわからない。

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