クールでウブな上司の襲い方 《 番外編(2) 01

 空港を出るまでは長袖を着ていた。しかしいまは必要ない。陽光はまぶしく、吹く風は湿り気を帯びていた。


「暖かい……というかむしろ暑いですねっ、慎太郎さん!」

 那覇空港から発車したバスに揺られながら優樹菜は言った。行き先はレンタカー会社だ。ヤシの木が並んだ道路はいかにも南国という雰囲気で、それだけで気持ちが高揚して浮きたつ。

「……そうだな、暑い」

 慎太郎は白い扇子を広げて自身をあおいでいる。ふたりはバスの座席に並んで座っていた。こちらにも風がくるのは、彼がそういうふうにしているからだろう。無愛想だけれど、ちょっとしたところが優しいのはあいかわらずだ。

「涼しいです。ありがとうございます」

 彼の肩にピタリと身を寄せる。

「……ああ」

 仏頂面のまま慎太郎は手を動かし続けている。頬はほんのりと赤い。

「ふふ……」
「……なんだ、ニヤニヤして。腹でも減ったか?」
「違いますよ。慎太郎さん、優しいなあと思って。大好きですっ」
「………」

 慎太郎はあからさまにプイッと顔をそむけた。扇子から送られてくる風が、強くなった。

***

 ――この景色をふたりじめできるなんて。


「うみーっ!!」

 喜びのあまりつい子どものように叫んでしまった。かたわらにいた慎太郎が驚いたような表情を浮かべている。優樹菜はそれを満足げに見上げた。

「慎太郎さんが驚いてる顔は貴重です」

 ここぞとばかりにしげしげと観察していると、

「……きみの水着姿もなかなか貴重だ」

 慎太郎は優樹菜の視線を避けて彼女の胸もとをジロジロと見つめている。優樹菜はあわててそこを両手で隠した。
 ここは宿泊者限定のプライベートビーチだ。ふたりが泊まっているコテージは一棟貸切なので、ふたりのほかにはだれもいない。とはいえ、屋外で胸もとを凝視されるのは恥ずかしい。優樹菜は両腕を胸もとでクロスさせたまま肩をすくめた。すると、

「隠すな、もったいない」
「やっ、ちょっ……!」

 ガシリと両手首をつかまれ、左右に強引に広げられた。
 優樹菜が身につけているのはホルターネックの水着だ。海色のそれはこのたび新調した。ふくらみの部分を覆う生地は少なめなのだが、プライベートビーチではふたりきりだし、ということで恥を忍んでこれに決めた。
 数分前に着用したばかりの水着を早くも脱がされそうになり、あせる。

「こっ、これ、いま着たばかりですよ?」

 彼を誘惑する気まんまんで選んだ水着だけれど、いくらなんでも脱ぐのは早すぎる。もう少し着ていたいし、まだ泳いでもいない。

「だってきみが誘うから」
「誘ってません……! ま、まだ……」
「こんな姿を見せつけられてガマンなんてできるか」
「ひゃぅっ!」

 慎太郎は優樹菜の豊満なふくらみを真顔で下から持ち上げてタプタプと揺らしている。

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