御曹司さまの独占愛 《 03

 うしろに立つ和臣との距離はほとんどゼロだ。彼の胸は背に当たるか当たらないかのところにある。

「そ、それでは……これを」

 若菜はどぎまぎしながら手近にあったスーツを物干しから取る。下を向いたままくるりとうしろを向き、「どうぞ」と言ってスーツ一式を手渡す。それからまた箪笥のほうへと向き直り、スーツに合うネクタイを選ぶ。そのあいだに和臣が着替えを済ませる、というのが毎朝のことである。
 頃合いを見計らって彼に歩み寄り、背伸びをしてネクタイを和臣の首にまわす。一日で、このときが一番緊張する。彼と間近で顔を突き合わせるこの時間が、どうにもこうにもいたたまれない。

「……明日が楽しみだ」

 穏やかにほほえみながら若菜を見下ろし、和臣がつぶやいた。

「明日、ですか」

 彼の予定を頭の中に思い浮かべる。

(明日はとくになにもなかったはずだけど……)

 和臣は明日もいつも通り仕事のはずだが、もしかしたらなにか特別な行事があるのかもしれない。若菜は詮索せず無難に「そうですか」とだけ返した。


 一日はあっという間に過ぎる。広い邸の掃除をして床へ就く頃にはいつもへとへとになっているものの、今日も一日やり終えたという達成感に満ちあふれている。
 若菜の眠りは深い。一度、眠ったらめったなことでは起きない。
 ――そう、めったなことでは。

「……っ!?」

 誕生日おめでとう、と言われたような気がした。だれかに体を踏まれている夢を見て、若菜はパチリと目を開ける。
 すると和臣は「今日をずっと待ち望んでいた」のだと言った。

(待ち望む、って……今日はなにか特別な日なの?)

 目覚めたばかりの若菜は主人である和臣に組み敷かれている理由がさっぱりわからない。そうこうしているうちに胸を揉まれ、着物の衿を左右に開かれてしまう。胸もとを押さえながら「酔っていらっしゃいますか」と訊けば、「きみに酔いしれている」と冗談めかした答えが返ってくる。
 そうして彼は自身の腰紐をほどいた。あらわになった彼の一物を目の当たりにして、若菜はさらに緊張する。
 ――これは、夢?
 いい夢か、あるいは悪い夢なのか、判断がつかない。

「……若菜」

 和臣は雄物をさらけ出したまま若菜の両手をつかんで無理やり左右に開く。

「ぁっ……」

 崩れた衿あわせからのぞく乳房を隠すものがなくなってしまった。和臣がそこを凝視している。先ほど彼は「いたたまれない」と言っていたが、それはこちらの台詞だ。

「み、見ないで、くださ……」

 なぜ言葉の最後まで言いきれないのだろう。極度の緊張と羞恥心のせいでうまく発声できない。

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