俺さま幼なじみとの溺愛同居 《 03


(うぅ……でも、やっぱりカッコイイ)

 いつもさんざん悪口を言われるのに、彼の見目がいいせいで話すときは緊張してしまう。カッコイイだなんて思ってしまう。

(優しいところもあるのはあるけど……いっつも私をバカにするしっ)

 助けてくれるのは、本当に困っているときだけだ。いや、救いの手を差し伸べてくれるのだから感謝せねばならないのだが、彼はいつも一言多いのでつい憎まれ口ばかりになる。

(ヒロくんはきっと性格のせいで彼女がいないんだ)

 何年か前までは彼女がいたはずだ。私が中学生ぐらいのとき、実家の近くを綺麗な女性と歩いているのを何度か見かけたことがある。しかしここ数年はぱったりとそれがなくなった。

(もしくは、仕事が忙しくてそんな暇がない、とか……?)

 未来はあごに手を当てて「うーん」とうなったあとで彼に尋ねる。

「ねえ、会社ってどんなところ?」
「は? 唐突だな。べつに、ふつうの会社」
「ふつうって……なにがふつうなのかわかんないんだけど」
「んん? うーん、おまえは事務の採用だよな。そうだなー……とりあえず遅刻の心配はないから安心しろ。ああ、それと会社までの道で迷子になることもない。俺が毎日一緒に通勤してやるから」

 会社のようすの説明になっていない、とツッコミを入れたいところだったが、それよりも気になるのは彼の最後のほうの言葉だ。

「ええっ、一緒に行くの!?」
「なんだよ、当たり前だろ。同じ家に住んでるんだから」
「会社の人にへんに思われたりしないかなぁ……」
「平気平気。みんな忙しいんだからいちいち他人にかまわないって」

 未来は甘いコーヒーをごくりと飲み込んでから「そういうもの?」と返して続きをうながす。

「そうだよ。それから、新人研修のあとは俺と部署も同じになるように社長に頼んでおいたから、おまえは大船に乗ったつもりでいろ」
「ええぇっ!?」

 あとほんの少しタイミングがずれていたら口からコーヒーを噴き出してしまうところだった。

「何でそんなことできるの? 社長さんと知り合いなの?」
「俺と社長は飲み仲間だ。行きつけの居酒屋がたまたま一緒だったんだ。今度連れて行ってやるよ。渋いとこだけどな」

 弘幸は爽やかに笑い、立ち上がる。キッチンカウンターの端に置いてあったカゴからチョコレートとおぼしき箱を取り出した。「食うか?」と尋ねられる。

「た、食べる……けど」
「けど、なんだよ」
「いや、べつに……」

 差し出されたチョコレートを「ありがとう」と言いながら受け取る。

(ヒロくんって、けっこうお世話好きなのかな?)

 ふだんの彼からはあまりそういうふうには見えないが、じつはそうなのだろう。

「え、っと……いろいろとよろしくお願いします」

 何となく癪だが世話になるのには違いないから挨拶はしておかなくては。しかし弘幸にとっては未来がそうして律儀に挨拶したことが意外だったのか、ぽかんとしたあとで照れくさそうにガシガシと頭をかいた。

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