(ヒロくんってなにを考えてるのか、いまいちつかみづらいんだよね)
朝食を作り終えた未来は広いダイニングテーブルに出来立てのご飯や味噌汁、鯖の塩焼きを並べていった。
「お、ちゃんとできてるな」
ダイニングに入ってくるなり弘幸は顔をほころばせ、さっそく席につく。未来が朝食を作っているあいだに身だしなみを整えてきたらしい。ついさっきまでぴょこんとハネていた前髪がいまは落ち着いている。
弘幸は薄い水色のワイシャツを腕まくりして両手を合わせた。
「いただきます」
彼はそういう挨拶を絶対に欠かさない。ぶっきらぼうに見えて、そういうところはきちんとしている。未来も彼にならって合掌して、「いただきます」と言って箸を取った。
(味付け……大丈夫かな)
濃すぎず薄すぎずの加減になっているはずだが、何度も味見をしたせいで最後のほうはよくわからなくなってしまった。
弘幸が味噌汁をすする。未来はそれをちらりと盗み見る。
「――ん、うまい」
不安げだった未来の表情がいっきに晴れる。
「お口に合ってよかったです」
安心した未来がふわりと笑う。弘幸は味噌汁の椀を手に持ったまましばし固まっていた。みるみるうちに彼の?が赤くなっていく。
「どうしたの?」
「や、べつに」
ダイニングテーブルの端から端へと視線を走らせて、弘幸はふたたび味噌汁をすする。そのあとはどこか急いだようすで朝ごはんを食べ進め、口早に「ごちそうさま」と言った。
「出かけるときと家に帰ってきたときは必ず戸締まりするように」
ネクタイの首もとを正したあと、弘幸は玄関扉に手を掛けた。未来は返事もせずにひたすら彼を見つめていた。
「……おい、聞いてんのか」
「きっ、聞いてるよ。戸締まりだよね、ちゃんとする。泥棒が入ったら大変だもんね」
「そっ――」
なにか言いかけたようだった。弘幸は口もとを押さえてうつむく。
「……インターホンが鳴っても出なくていいから。たいていセールスだ」
「うん……」
未来は彼から目が離せない。彼の言葉には上の空だ。
「……なに?」
けげんな顔で問われ、未来はあわてて両手を前へ持ってきて左右に動かす。
「や、べつに」
先ほど弘幸もこれとまったく同じ台詞を言っていたような気がする。弘幸は眉間のシワを深くして「へんなやつ」とつぶやく。
「行ってらっしゃい」
「ん、行ってくる」