俺さま幼なじみとの溺愛同居 《 09

 研修を終えた日――週末の夜。弘幸から「夜ご飯はいらない」と連絡を受けた未来は夕食を簡単に済ませて報告書作りに励んでいた。
 自室にはテーブルがないので、リビングのローテーブルの上にノートパソコンを置いて研修内容をまとめた。

「ふー……」

 報告書の最後に「以上」という文字を打ち込み、ファイルを保存する。ふと時計を見ると、ちょうど夜の12時をまわったところだった。
 ガチャッ、という金属音が何なのか、未来はもう知っている。

(あ、ヒロくんが帰ってきた)

 未来はノートパソコンの電源を切って立ち上がる。リビングのドアが開くなり、

「おかえりなさい」

 と言って弘幸を迎えた。

「……ただいま」

 彼の声が少しかれているのはお酒のせいだろうか。弘幸は飲んできたらしく、彼が近づくと酒の匂いが濃くなった。

「お水かなにか飲――」

 すべて言い終わる前に目の前がぐるりとまわった。

「……っ!? ヒロくん、大丈夫!?」

 ――酒のせいでふらついて、それで私を巻き込んでソファに倒れてしまったのだと思った。
 弘幸は未来に覆いかぶさり、彼女の肩に顔をうずめて動かない。
 ソファに押し倒されてしまった未来は何とか起き上がろうとしたが、彼の体に阻まれて少しも身動きがとれなかった。

「……ヒロくん?」

 眠ってしまったのだろうか。そうだとしたら、なおさらここから抜け出さなくては。そして部屋から毛布を持ってくる。こんなところでスーツのまま寝ていたら風邪をひく。

「ねえ、ヒロくんってば」

 もしくは何とかして起こして自室へ行ってもらおう。やはりベッドで眠るのがいちばんだ。両手で彼の肩をつかみ、揺さぶってみる。

「んん……」
「――っ!」

 耳もとでそんな低い声を出さないで欲しい。くすぐったくてたまらない。脇腹のあたりがむずむずしてくる。
 大きな手のひらがペタッと頬に張り付く。弘幸は未来の顔がどこにあるのか手探りしているようだった。熱い大きな手のひらに、無理やり彼のほうを向かされる。

「……未来」

 視線が合った瞬間、名前を呼ばれた。つやっぽい表情で見つめられ、心臓がドクンと大きく跳ねる。

「あ、あの……ちゃんと部屋で寝ないと、風邪ひいちゃ――」

 またしても最後まで言えなかった。熱のこもった柔らかな唇を押し付けられ、言葉どころか呼吸もままならなくなる。

「ん、う……っ!」

 キスをするのはこれが初めてだった。二十二年間だれとも、こんなふうに唇を合わせたことなんてなかった。

前 へ    目 次    次 へ