俺さま幼なじみとの溺愛同居 《 10

 弘幸の目は開いているのかそうではないのか、近すぎて焦点が合わないのでよくわからない。もしかしたら彼は寝ぼけているのかもしれない。

(キス、してる――ヒロくんと……!)

 驚きのあとにやってきた感情は喜びと羞恥。否定的な感情はいっさいない。そうして未来は自覚する。自分は彼にずいぶんと好意的なのだと。

(でも、なんでヒロくんは私にこんなこと……っていうか、キスってこんなに長い時間するものなの!?)

 先ほどから彼はいっさい動かない。なにもかも初めての未来は身を硬くしたまま動けずにいた。やがて聞こえてきたのは、規則正しい寝息。

「……ヒロくん?」

 呼びかけても返事はない。あるのは「すう、すう」という穏やかな吐息の音だけ。

(寝てるし!)

 未来はそっと顔を離して弘幸の顔を見る。瞳は固く閉ざされている。どう考えても寝ている。
 はぁぁ、と長いため息をついて未来は起き上がろうとした。しかし、腰もとに巻きついている弘幸の腕がどうしても外れない。

(寝てる……んだよね!?)

 そう疑ってしまうほど彼の腕には力が入っている。

(あんまりもがいてたら、起こしちゃうかな……?)

 せっかく眠っているところを起こしてしまうのは忍びないという気持ちと、いや、無理に起こしてでもベッドへ行ってもらうべきだという気持ちがせめぎ合う。

(……ひとまず、もう少しだけ)

 彼がお酒を飲んでいるせいか、弘幸の腕の中はとても温かく心地がよかった。ほんの少しだけのつもりで目を閉じる。
 ――その『ほんの少し』がいけなかったと、あとから後悔することになる。



「……っ、くしゅん!」

 リビングのソファで眠ってしまった未来は見事に風邪を引き、明くる日、土曜はずっとベッドの上で過ごすことになってしまった。

「ったく、情けないなー」

 赤い顔で布団の中にいる未来を見下ろし、弘幸はわざとらしく大きなため息をつく。

「いったいだれのせいだと!? ……ぅっ、げほっ」

 いきなり大声を出したので咳き込んでしまった。弘幸に「大人しくしておけ」と咎められる。未来は「うぅ」とうめいて恨みがましく幼なじみを見上げた。

「……なんでヒロくんは平気なの?」
「俺はおまえと違って頑丈なんだよ」

 いかにも得意げに弘幸がほほえむ。

(どうして私だけ! ソファで一緒に寝てたのに……)

 そう、一緒に寝ていたのだ、朝まで。
 風邪による熱とは違うなにかがいっきに込み上げてくる。全身の血が沸騰しているんじゃないかと思う。それくらい、とにかく熱い。

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