「わ、私も……好き。たぶん、ずっと前から」
思ったよりも小さな声しか出せなかった。でもちょうど風が凪いだ。彼の耳には届いたと思う。
「……たぶんって何だよ」
よかった、ちゃんと伝わっていた。弘幸はいまだに恥ずかしそうな面持ちのまま唇を尖らせている。
「自分でもよくわからないの! でも……好き」
そのあとは何ともいえない沈黙があった。恥ずかしくて顔を上げられない。どこかの家の気がサワサワと揺れる音がする。
「……っ、ヒロくん」
急に手をつかまれ、強引に歩かされる。うしろから見る彼は耳まで真っ赤になっていた。だからこれは照れ隠しなのだろう。触れ合っている手だって、すごく熱い。
(私にまで熱が移っちゃったよ)
そうでなくても、もともと体じゅうが火照っていた。好きだと言われ、私も好きだと返して。ずっと前から――生まれたときからの知り合いなのに、いまさら想いを伝え合うのがとてつもなく照れくさい。
自宅に着くと有無を言わさず脱衣所に連れ込まれた。
「え、あの……な、なにっ?」
「社長が言ってただろ。佐伯はずいぶんと我慢してきたんだ、って」
他人事のようにそう言って、弘幸は未来の真新しいスーツをどんどん脱がせていく。丸裸にされるまではあっという間だった。
未来は両腕で胸を覆い隠し、彼に背を向ける。弘幸もまたスーツを脱いでいった。互い生まれたままの姿になると、弘幸は未来の背を押して強引に浴室の中へと進む。
「体、洗ってやる」
「いっ、いいい、いい!」
「何回『い』って言ってんだよ。まあいいや、いいんだろ?」
クスクスと笑いながら弘幸は未来を風呂椅子に座らせて、手のひらにボディソープを泡立てる。
(もうーっ、何でこうなるの!?)
お互いに想いを伝え合って、それからなぜすぐにこんなことになっているのだろう。
(我慢してた、って言ってたけど……)
それにしたって急展開すぎる。こちらとしては想いを自覚したばかりなので、正直なところまだついていけない。
「そんな身構えなくても。体を洗うだけだって」
「だ、って……! ……本当にそれだけ?」
いや、素肌に触れられるだけでも大層なことだが。
「手のひらで丁寧に洗うだけ。それだけだ」
――手のひらで!
それはどう考えても怪しさ満点だ。未来は「だめだめっ」と連呼して立ち上がろうとしたが、弘幸に両肩をつかまれ押さえ込まれる。
「……っ、ぁ」
肩にあった彼の手がぬるりと下へ滑る。ふくらんでいるところを撫でて、しかしいただきは避けて脇腹のほうへ下りていく。