「じれったそうだね?」
神澤がクスッと笑ったのがわかった。ああ、彼はあえてそこに触れないようにしているのか。
「ふ……っ」
乳輪の際を彼の指が行ったり来たりする。指の勢いだけはよくて、すぐにでも尖りの部分へ行き着きそうなのに、そうはいかず引き返してしまう。
何度も何度もそんなふうにされて、じれったさは募るいっぽうだ。
「きちんとお願いできたら触ってあげるよ」
「お、ねがい……?」
「そう。何のことか、わかるよね?」
目隠しされているにもかかわらずぎゅうっと目を閉じる。そうしてしばし考えた。意地を張るか、気持ちに正直になるか。
「齋江さん」
突然、耳もとで名前を呼ばれ、優香はぴくっと唇を震わせる。なにも見えないいま、低くかすれたささやき声はいやに誘惑的だった。
優香は観念して彼に言う。
「乳首……さわって、ください」
自分が考えていたよりも小さな声しか出せなかった。彼はこれくらいで納得するだろうか。
「――ん、俺も触りたかった」
弾んだ声が返ってきて、乳頭をつまみ上げられる。
「は、ん……っ!」
じれた体には強すぎるくらいの刺激だった。乳首を引っ張る指にはたいして力がこもっていない。それなのに、つまみ上げられた瞬時、甘い疼きが体じゅうを駆け巡った。
「あ、ぁっ……!」
浅くつままれたままキュッ、キュッとリズミカルに引っ張られる。
視界が閉ざされているいま、ささやかな刺激でも強い快感につながる。
小さく喘ぐ優香を見下ろして神澤は口もとに弧を描く。
それから、彼女に気取られないようにするためか緩慢な動きで頭を低くして優香の胸もとに顔を寄せた。
赤い舌が、尖りきった薄桃色の棘をつつく。
「ふぁっ!?」
いったいなにがそこに触れたのか、すぐにはわからなかった。
しかしながら、生温かくざらついたものといえばひとつしかない。
(舐め、られてる……!)
自覚するなり全身が粟立った。彼が胸の先を舐めている姿を想像して、よりいっそう官能を刺激される。
「んぁ、あ……はぁっ」
優香は脚の付け根もじもじとこすり合わせて身もだえする。
(目隠しされて、手足も縛られて――なんて、初めてのことだけど)
意外と抵抗感がない。それどころか、よけいに興奮しているのではないだろうか。
(気持ちいい……っ)
酒の勢いで上司の家にきて、こんなふうに拘束されて。乳首を舐められて悦んでいる。
神澤とは将来を誓い合った仲でも何でもないのに――職場の上司だというのに、ふしだらなことをしている。
いまの優香にはそんな背徳感すら快感を助長するばかりだ。