「あの、私……包装紙を買ってきます……」
「ええ、気をつけて。大丈夫よ、私も最初は全然だめだったから。数をこなせば何とかなるわ。あ、領収証を忘れないようにもらってきてね」
「はい。行ってきます――」
その日の夜、美樹は店のぶんとは別に包装紙を買って自室で梱包の練習を繰り返した。
一枚の紙を擦り切れるまで使って、その上で三十枚は消費したころに、ようやく、何とか見られる形になってきた。
部屋に散乱する失敗作の山をそのままにして、美樹は夜風に当たるべくバルコニーへと出る。
「あ……」
またしても拓人にばったり出くわした。彼はティーカップを片手に夜空を見上げていた。
「美樹ちゃん。お疲れ様」
「お疲れ様です」
今日も湯上がりらしく、髪の毛は少し濡れていて、しかもワイシャツの胸もとがはだけていた。目のやり場に困って、美樹は彼が手に持っていたティーカップをじいっと見つめる。
「ハーブティーなんだけど、美樹ちゃんも飲む?」
ティーカップを差し出される。そればかり見つめていたせいで誤解させてしまった。手を伸ばせばカップを受け取れる距離だったが、美樹は首を横に振った。
「あ、そうだよね。俺の飲みかけなんていらないよね。ごめん、へんなことして」
「いえっ、そんな……」
――むしろ、そうだから飲めないのではないか!
恋い焦がれる拓人が口をつけたものを飲むなんて、下心がありすぎて、できない。
美樹がうろたえているあいだに、拓人は身を乗り出して彼女の部屋のなかを見た。
「あ、ごめん。勝手にのぞき見しちゃって……。何か俺、失礼なことばっかりしてるね」
「い、いえ」
美樹の頬が赤くなる。部屋のなかは散らかしたままバルコニーへ出てきてしまったので、恥ずかしい。
赤い頬のままうつむく美樹を見て、拓人はほがらかに笑んだ。
「頑張ってるみたいだね? ありがとう。でもあんまり根を詰めないでね」
うつむいたまま、美樹は「はい」と返事をする。
「それじゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」
部屋のなかへ入っていく彼を見送ったあとで、美樹もまた自室へ戻った。
「おっ? 何だ、できないできない言ってたわりに、けっこうマシじゃん」
閉店後。カウンターの前で四苦八苦していた美樹の手もとをのぞき込み、拓真は軽口を叩く。
「まぁでも、あとちょっとって感じかな。コツがあるんだよねー」
「コツ? なあに、教えて」
「どうしよっかなぁ」