甘い香りと蜜の味 《 13


「でも、俺……このままじゃ、その」

 彼の視線が泳ぐ。頬がほんのりと赤い。初めて見る表情だった。
 五歳年上で、いつも余裕たっぷりで。何だってそつなくこなす彼が、頬を赤くしてうろたえている。

「あ……。い、いい、ですよ……?」

 ついそんなふうに言ってしまったあとで、すごく大胆な発言をしてしまったのでは、と後悔する。なぜなら、彼の表情が一変したからだ。

「意味、わかって言ってる?」

 真剣な表情。からかいのない声音。
 どくっ、と胸が大きく鳴って、緊張感に拍車をかける。

「わかってる……と、思います」

 その一瞬、壁掛け時計の秒針が進むカチッという音が妙に耳を打った。

「そっか――」

 肩をつかむ彼の手に力がこもる。
 急に目の前が暗くなって、気がついたときにはすでに唇が離れていた。

「あ、っ……」

 キス、された。それを認識するのに手間取っていたせいで、制服のベストと、なかに着ているシャツの胸もとを乱されていることにしばらく気がつかなかった。
 そうして下着があらわになると、拓人は目を細めて下着と肌のあいだに手をくぐり込ませた。

「――っ!」

 ふくらみの尖っている部分を、彼の指先が探るようにかすめる。

「こんなふうに乳首をいじられるんだ――って、美樹ちゃんはわかってたんだね?」
「……!」

 小さく首を横に振りながら美樹はうつむく。確かに先ほど、「わかっている」と答えたものの、具体的なところまで考えが及んでいなかった。漠然としか思い描けていなかった。
 拓人は左手で美樹の体を背中から抱き込むようにして、もう片方の手で彼女のブラジャーを無理やり押し上げた。その性急な手つきに、美樹は「ぁっ」と小さく戸惑いの声を上げる。

「たっ……拓人、さん」

 いいですよ、と言ってしまった手前、いまさら「やめて」とは口にすることができず美樹は胸もとを隠すだけになる。

「よく見せて」

 語調は強く、命令的だった。彼はいつだって物腰が柔らかいから、別人になってしまったような気さえしてくる。
 薄くほほえんだままの彼に両手首をつかまれる。ゆっくりと、しかし抗えない力で手を左右に開かされる。
 なにを言うでもなく、むき出しの胸を見おろされる。無言でそこを凝視するのはやめて欲しい。いたたまれない。

「あ、あのっ……ええと……電気を、その」

 せめて部屋の電気を消してもらいたい。そうでなければ恥ずかしくて卒倒してしまいそうだ。

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