甘い香りと蜜の味 《 15


「ひとまず、深呼吸してみる?」

 絵本でも読み聞かせるような調子で穏やかに言われ、美樹はそのとおりに大きく息を吸い、静かに吐き出した。彼につかまれたままの胸がゆっくりと上下する。

「もう一回」

 言われるまま、何度か深呼吸をした。
 そうして大きく息を吸い込んだとき、ふたつの薄桃色を指でつんっと押し上げられる。

「ふぁっ!」

 息を吐き出すのと同時に、つい大きな声が出てしまった。

「嫌だった?」
「い、嫌では……なくて……その」
「……痛かった?」

 悲しそうに、眉尻を下げて尋ねられれば何だか返って悪いことをしているような心地になる。
美樹はぶんぶんと首を横に振った。

「じゃあ、どう感じた……?」

 本音を言うのはしばしためらわれたが、拓人に「教えて?」と優しくまくし立てられて、答えざるをえなくなる。

「き、きもち、い……」

 小さく告白すると、彼は嬉しそうににっこりとほほえんだ。
 美樹もつられて笑顔になるものの、頭のなかにふと疑問が浮かぶ。
 ――あれ? もしかして、言わされた!?
 いや、そんなことはないだろう。彼は優しい人だ。
 うんうん、と心のなかでうなずく美樹の首すじに拓人は顔をうずめる。

「甘い匂いがする」
「えっ!? あ、ええと……そうですか?」

 そういえば、ボディソープはバニラの香りを使っている。
 美樹もまた息を吸い込む。

「拓人さんのほうが……甘い」
「そうですか?」

 クスッと笑いながら拓人は美樹の言葉を真似て、ちゅっと彼女の肌を吸った。

「んっ」

 彼の両手が胸の先でモゾモゾと動く。薄桃色の尖りを、軽く撫でるようにして拓人にくすぐられている。

「やっ……くすぐったいです……!」
「くすぐってるからね。……体の力、少し抜けてきた……かな?」
「ふ、うぅっ……!」

 美樹は拓人の両腕をつかんでくねくねと身をよじった。触れられて怖いという思いが薄れてきている。

「……そろそろ舐めてもいいかな」
「――っ!? だ、だめです」

 どこを舐めるのかと言われれば十中八九、いま彼が指先で触れているところだろう。

(舐められる、だなんて……!)

 想像しただけで羞恥心が爆発しそうだった。

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