甘い香りと蜜の味 《 24

 ゾクッと瞬時に総毛立った。彼の指先は絶妙な加減で乳頭に触れない。触れたのは、甘い香りのクリームだけ。
 薄桃色の上に飾りつけられたホイップクリームを、拓人は仕上がりの良し悪しを見るようにじいっと凝視する。
 クリームに覆われたそこを隠すに隠せず、両手をさまよわせる。
 彼がこのあとどうするつもりなのか予想はつくものの、だからといって「はいどうぞ」と胸を差し出すのもどうかと思う。

(拓人さん、もしかして……このあいだ私が『舐めちゃだめ』って言ったこと、根に持ってる?)

 罪悪感のようなものが少なからずある。だから美樹は、身を屈めて胸に顔を寄せる彼をただ見ていることしかできなかった。
 赤い舌が白く飾られた棘の根もとを掠める。

「ふぁっ……!」

 そんなところに舌を這わせられるなんて恥ずかしい。それ以外の感情なんてないに違いないと思っていたのに、もたらされたのは圧倒的な快感だった。むしろ羞恥心のほうが、影をひそめてしまっている。

(う、うそ、こんな……)

 こんなふうに反応してしまう自分自身が、信じられない。息遣いは瞬く間に荒くなって、胸は彼の舌を誘うように上下している。
 拓人はうっとりとしたようすで美樹の顔を見上げ、先ほど美樹の口腔にほどこしたのと同じようにゆっくりと舌を動かして胸飾りの付け根をくすぐった。

「ぁう、うっ……」

 美樹はよろよろと後ずさる。鏡面になっている銀色の冷蔵庫に背中がぶつかる。
 舐められるなんて、と思っていたはずなのに、甘い疼きが下半身から込み上げてきて、彼の舌遣いをじれったく感じてしまう。
 拓人はつぼみの下端をちろちろとくすぐるだけで、なかなかホイップクリームを口のなかに入れようとしない。

「拓人さん……っ」

 たまらず美樹が呼びかけると、拓人は舌を出したまま口角を上げた。
 クリームが載ったまま尖りきってしまった乳頭はようやく彼の舌に舐め上げられる。美樹の体がビクビクッとわななく。

「アァッ……!」

 喘ぐのと同時に顔を上げると、壁掛け時計が目に入った。間もなく六時を過ぎる。美樹はハタと気がつく。

「あ、あの……もうすぐ拓真が帰ってくるんじゃ……」

 すると拓人の眉間に一瞬だけしわが寄った。

「んん……そうだね」

 口もとを押さえて、拓人が顔を上げる。
 美樹はそそくさと胸もとを正した。

「……知らなかったです。拓人さんがこんなにエッチだったなんて」

 下を向いたままぽつりと言う。しばしの間があった。

「……俺もだ。美樹ちゃん限定で、そうなっちゃうらしい」

 そうして口のなかに広がるのは、ほのかな甘み。
 甘味は控えめなはずなのに、なぜだろう。それは、とても甘いくちづけに思えた。

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